風のように旅するために
村田あけみさん TD01W  「創作の森 クプカ」の1ページ 

 那須高原の標高750mあたりにある森の中から、『創作の森クプカ』というホームページが発信されている。
 インターネットによって、誰にでも訪ねていくことができるその森の名は、ネイティブ・アメリカンが持っている 宇宙観にシンクロしているが、その謎については『創作の森クプカ』をさまよってい けば見つけられる。
 村田あけみさんは、森に作品を植える庭師であり、木々や草花でもあり、動物や虫たちでもある。ひょっとすると、森を駆け抜けていく風も、さわさわと流れる水も、木立の奥にひっそりと建つ家の灯りも、村田さんそのものなのかもしれない。
 それがおそらく、『クプカ』という宇宙観のひとつのとらえ方だ。
 多くの人々は、『クプカ』をモニター越しに見つけることになるのだけれど、この森は那須高原の広がりともオーバーラップする。四季と風景の変化に富み、街から少し離れた楽園。しかし表情豊かな自然というものは、ときには優しいばかりではない。厳しさや不自由さも背中合わせ。それらを全てひっくるめたものが、『クプカ』を包み込む那須高原の姿と言えよう。

 2001年の春。村田さんご夫妻が東京を離れ、那須へ定住する際、この土地での暮らしを支えるツールとして選んだのが、エスクード・ノマドだ。
 那須高原といえば、那須岳の南麓に広がる緩やかな裾野のイメージが定番だが、東北本線の鉄路が既に標高300mあたりを走っており、かたや那須ロープウエイの那須山麓駅は1300mを越える標高にある。車で移動できる標高差は、決してなだらかではないし、山襞は幾重にも起伏を作りだしている。避暑にやってくるなら2シーターのスポーツカーもよく似合うけれど、物資を積み込み、登坂路を行き来し、アトリエが雪に埋もれても買い出しに走れるとなれば、あらゆるシーンに似合う車は変わってくるのだ。
 ご主人の村田收さんは水彩画家。ときには大きな水彩画の額を積み込むこともある。2名乗車に限定した場合の、ノマドのカーゴスペースは、これに応えてくれる。

 「個人的には、アメリカに2年間住んでいる時に中古を買って乗っていたボルボに、座席に座った感じとか、ハンドルの感じがなんとなく似ているな〜と思っています。ガチっと守られている安心感があり、けっこう気に入っています(ハンドルの感じも)
 最近の、女性向けの(ファンシーグッズみたいな)かわいいけれど、チープな内装の車とかよりは、ノマドのこの無骨さがお気に入り♪ ま、山での田舎暮らしには、車高の高いこの手の車でないと、お腹すっちゃってとても無理ってこともありますが」

 東京から移り住み、那須高原の森のなかに中古物件を購入した村田さんご夫婦。その住 まい兼アトリエづくりに、ノマドも活躍した。ベースとなった古い別荘の改装は、ご主人が1人で手がけたというから、資材の多くは、画材と同様にノマドが運んだのであろう。あけみさんが作る朝な夕なの食材もまた、然りだ。そしてなにより、那須と外の世界を結びつける、ご夫妻の足として、ノマドは走り続けている。
 
 「2007年9月30日から10月16日までの17日間、車中泊をしながら、夫婦ふたりで北海道へ旅に出ました。夫の絵の取材、スケッチ旅行が主な目的でしたが、ノマドは夫が車中泊仕様に改造しました」

 車中泊、そして一般道だけを使っての旅は、3430kmの道を走り繋ぎ、訪ねて行った見知らぬ町の匂いや、その土地で出逢う人たちの暮らしに触れる。ご主人がスケッチブックに描きとめる風景と同じ景色を、あけみさんは写真に収める。日常の中で日常とは異なる時間を過ごせたという。たくさん走っても、1日あたり300km。ノマドは先を急がせたりしないし、旅の道具を満載していても、淡々と走り続ける。その日、足を止めた場所が、その日の宿泊地。ノマドはまさに遊牧民の“パオ”となって、テーブルや寝床を展開する。
 あけみさんは、旅の思い出や感激を、『クプカ』の森に植栽している。写真やエッセイや詩編の数々、創作の芽吹きは、旅先で見つけてきた小さな種子から始まっていて、森は少しずつ広がり続けている。

 「今、車内は日常仕様にほぼ戻してあります。暖かくなり、旅行シーズンが到来したら、車中泊仕様に復帰です。本当は新モデルに移行したいところですが、いまのノマドも充分にまだ現役で、別に不都合な点も感じないので、ここはもう行けるところまで一緒に過ごしたいと思っています」

 ノマドとご夫妻の旅のエピソードは、『創作の森 クプカ』の「風のように旅したい」「道のソナタ」にまとめられている、『クプカ』の森のほんの1シーン。日常仕様のノマドは、どこにでもあるコンパクトな四駆に戻っており、森の木々に埋もれて目立つことはなく、広大な那須高原でこれを見かけることは至難の業かもしれない。
 しかし、個体としての存在感を主張しながらも、風景の中で突出しないローインパクトさこそ、エスクードの魅力なのだ。そしてノマドは、ライフラインとしての冬の役目を終えると、再び仕様変更を施される。

ご主人 村田收さんが描いた近影