夏の訪れと熱湯治療
スペアタイヤカバーを修繕

 初夏、嵐田風花のノマドが基地を訪れた。スペアタイヤカバーの経年劣化が進んできたため、カバーの化粧直しを基地で行うためだ。劣化くらいならまだ良いが、割れてしまっては何か手当をせねばと、カバーの不要品を思い浮かべ、儂殿に連絡。事前に彼のノマドのタイヤカバーを譲ってもらっておいた。
 こういうとき、儂殿は仕事が速い。電話とメールを入れた翌日の夜には、タイヤカバーはつくばーど基地に届いた。しかしうっかり。彼のノマドはヘリーハンセンだったのを忘れていた!
 風花のノマドはゴールドウインなのだ。


 限定仕様の違いはあるが、車体色は同じだ。だからロゴ自体を移し替えればいい。
 そこで、熱湯を注ぎ30秒作戦をとる。ヘリーハンセンのロゴは軟質樹脂のプレートを粘着テープで貼り付けてあるため、お湯によって柔らかくなり、剥離しやすくなる。
 ロゴのブロックごとに熱湯療法を施し、ロゴプレートを引っぺがしていく。プレートを剥がすと、粘着テープの糊のあとが残る。これを台所から見繕ってきた洗剤(ガスレンジなどの油落とし用)で洗い落とす。この行程が一番時間を要する。
 一通り糊のあとを除去し、液体コンパウンドで面を整える。それでも圧着させてあったロゴの輪郭は残る。残らなければ面白くない。エスクード仲間から仲間へと引き継がれるパーツが持つ記憶だから。
 汚れ落とし完了。これを風花に引き渡し、同じようにゴールドウインのロゴを従前のカバーから剥離させ、このカバーに貼り直す。
 「GOLDW」までが一枚構成のロゴのため、熱湯は何回かに分けて各文字を温めながら、徐々に引きはがす。

 儂殿から譲っていただいた、元ヘリーハンセンのカバーに、剥がしたロゴを載せて、位置決めをしてみる。剥がしたロゴは冷え始めると歪んだまま硬くなってしまうので、タイヤカバーを裏返してお湯をはり、その中で再度柔らかくして均一に伸ばす。
 伸ばし終えたロゴの裏側に、超強力極薄両面テープを貼り付けていく。この間、ノマドのドアバイザーにガタガ来ていたのを、やはり両面テープで固定し直すなどの別作業もやっていた。
 いよいよロゴの貼り直しを行う。
 元のヘリーハンセンロゴが貼ってあった圧着痕を水平ラインに見立てて位置を決めていく。現物をよく見ると、ヘリーハンセンの文字の痕跡が見えるのだが、そこが受け継がれるパーツの醍醐味。
 風花はこのあと、カバーにトレードマークの仔猫のたび助マークをカッティングで切り出し、アクセントにした。彼女のノマドはまだまだ現役で走り続ける。
 夏は始まったばかりだ。