ダリを見に行く
裏磐梯の春
 仕事で訪ねた諸橋近代美術館は、個人所有のダリ・コレクションを展示している。折しも館内改修を施し、内壁塗装が珪素系の漆喰を使う新しい試みで、その話を伺った。
 偶然にもオーナー(故人)と過去に別業種で面識があったが、こちらの無学で美術館をお持ちとは知らなかった。
 後日、娘たちを連れて、あらためて、今度は建築の話ではなくダリそのものを観賞するために裏磐梯にやってきた。
 ダリには情熱と狂気といった先入観を抱いていたが、しみじみと眺めていくと、繊細と弱さも感じていく。
 二重三重の隠し絵や三次元の展開のなかに、封印されたメッセージを読み解けるほどの鑑賞力は無いが、何を伝えているのか、まだ奥に何かあるのかと引きずり込まれた。
 ではダリを気に入ったかというと、これを落ち着いて眺めていられない自分の小心さから言えば、好きにはなれない。
 静寂のはずの館内にはまるでエネルギーを溜め込む火山のような迫力がある。これはさながら、磐梯山に向けた結界のようだ。
 ・・・いやまさか、そのためにこの美術館がここに置かれたわけではあるまい。などと俗っぽいことしか思いつかない自分には、娘らに作品を説明してやれる資質は無かった。