稜線の巨影
風力発電がやってきた


 近所の国道バイパスを走っていたら、西の尾根の稜線上に巨大な柱が見えた。尾根向こうの町から林道を登るときに見ていた風力発電施設が、こちら側からも視線に入ることを、今まで気がつかなかったのである。
 巨大な風車のある風景は、今まで遠いところのイメージでしかなかったけれど、とうとう近所にも、こういう景色ができあがってきたのね。
 というわけで、こちら側から林道を使って尾根筋へ出かけてみた。
 2機の発電用風車は、稜線林道の途上に建設されているが、2機だけでどれくらいの発電が可能で、それを売電してどの程度の利益を得られるのだろう? この日は待機状態で、プロペラは回っていなかった。近くにはハングライダーやパラグライダーのカタパルトがあって、その利用者の間では、この風車は邪魔な存在らしく、時折、反対運動の声も聞こえていた。どちらも既得権の主張である。
 遠くにあって、わざわざ見物に出かけていく風車軍がいくつかあるが、ここは尾根をもう一つ越えると、もう我が家だ。たった2機でも、稜線のランドスケープは大きく変わる。今まで、それぞれの風車の直下の人々のことは、考えたことはあるけれど、真剣な考え方ではなかったとあらためて感じた。
 我が儘勝手な考え方だが、この景色を眺めてみて、もう一つ東の尾根にまでは来ないでもらいたいなあと・・・その東の尾根が、我が町からはこの眺望を隠してくれることで、まだ遠い景色でいられるのは、この際正直に言えば、幸いなのかもしれない。

 稜線林道はかつて、修験の道として切り開かれた。山岳信仰や講とともに、鬼や天狗も峰から峰へと渡り歩いていた時代がある。吉野にあると言われる「猛士」の一派が、この稜線を歩いたかどうかは、定かではない。