スズキエスクード1600−XC(MT)
1,420kgの車体に78kW(106PS)の最大出力であり、その走りに期待はしていなかった。
しかし、2.0XGの5MT同様に軽いクラッチを踏み、初代と較べて格段に入りやすくなったシフトレバーを1速に入れて発進する際に感じたのは、2.0XGより110kg車体が軽くしかもローギヤードに設定された減速比のため、半クラッチに気を遣う事もなく簡単に走り出すことであった。
その反面、シフトチェンジは忙しいが、アクセルを踏んだ際のレスポンスの良さはさすがにマニュアルミッションであり、決してパワフルとは言えないが、市街地を走るには充分であると感じた。
以前試乗した2.0XGの5MT仕様が減速比の設定が悪く期待に反して気持ちよく走れなかった事とは対照的で、小排気量のエンジンでのマニュアルミッション車の軽快さが上手く生かされていると感じた。
現実には初代の5ドア ノマドより大きく重い車体を軽快と表現するのには抵抗があるのも事実ではあるが。
すこし喧しいギヤノイズは独自のセンターデフから発生すると思われるが、AT車ではあまり感じることがなく、2.0XGの5MT仕様を思い出し、とても懐かしく感じた。
16インチホイールに装着されたタイヤは17インチホイールの物よりもゴツゴツ感がなく、スプリングやダンパーのセッティングが最適化されているため、2.0XGの様に路面からの衝撃がダイレクトに伝わる様な感覚は無い。硬めのしっかりした足回りは直進安定性にも優れており、ステアリングを切った分だけ簡単に車体が向きを変える感覚はサスペンションと車体の剛性を実感することが出来た。
因みに重量配分は、前760kg:後660kgの54:46で、最も重い2.7XSと較べて前後ともちょうど100kgずつ軽い。
運転席に関しては5ドアと殆ど同じで横方向に広いが、何回か5ドアのエスクードに試乗しているためか全幅が広いことをあまり意識する事はなかった。ドアの長さも5ドアよりも確実に長いのだが、これも慣れなのか同様に重さを意識することは無かった。
視界に関してはドアの後ろの太いセンターピラーは助手席の背もたれと重なるため、思っていたほど視界の妨げにはならなかったし、むしろリアのCピラーが細くなり、リアウインドーが近く成った分後方視界は5ドアよりは良くなっていると思えた。
しかし、窓の下端が高く大きなドアミラーのために周囲の直近の死角は大きく、特に右前方の死角は要注意であると感じた。
小さなサイドアンダーミラーは調整出来ず、ワイパーの陰に隠れ見え難く、車線の確認以外には役に立ちそうにない。
この3ドアでは省略されてしまったが、シートリフターがあれば座高の低い人でもシートを上げることで少しは視界が改善されるかも知れないのは残念である。
後席は意外と広く、前席に特別に足の長い人が乗らない限り足元には余裕があるが、前席を一番後ろにセットするとシートバックが膝に当たることになる。
5ドア同様にシートをフルフラットにすることは出来ない。前席が更に150mm位前方にスライドしないとフラットには成らない様で、5ドアではこの距離が約100mmだったので、この差は前後席の間隔の違いだろうか。
副変速機が無いので4WDスイッチはない。ESPスイッチもオーディオさえも無いセンターパネルはシンプルで当然ステアリングスイッチも無いステアリングはウレタン製。オーバーヘッドコンソールも省略され、頭上前方のルームスポットランプの位置にはドアの開閉に連動したルームランプが付く。等々徹底したコストダウンが計られている。
燃費基準や排ガス規制、衝突安全と歩行者保護等々、自動車を取り巻く環境は年々厳しくなっており、用途としても日常の買い物から送り迎えや長距離ツーリング、果てはオフロードまで全てを満足させる車など到底出来る筈がない。
そして、3代目のエスクードでも時代の要求と海外での要望を優先させるために、小型軽量というエスクード本来の魅力をスポイルさせざるを得なかった。
しかし、この3ドアによってエスクード本来の姿を示している様に感じた。それは市場の要求とは噛み合わないかも知れないが、販売不振により消え去るのはあまりに残念であり、AT仕様や2.0Lエンジンの追加等の新たな展開に期待したい。
個人的には、マニュアルミッションと同様に燃費も良く楽しく走れるオートマチックミッションが出来ればと思うが、現状ではやはりマニュアルの方が良いと実感したのも残念なことであった。実際、直後に試乗した2.7XSは快適ではあるが、1.6XCほどに楽しくは感じることが出来なかったのだから。
今回の試乗は株式会社スズキ自販長野さんにご協力頂きました。
この場を借りて御礼申し上げます。
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