CBA−TDB4W
3.2XS
 大排気量に属するエスクードは、2500ccのTD61Wあたりから始まっており、61Wは初代のクロスカントリーテイストの中にあって、ツアラーと呼ばれた。ここからV6シリーズはTD62W、グランドエスクード(TX92W)を経て、3代目の2.7XSや2.7XGへと変遷し、この3.2XSでH系V6からN系V6へと進化した。
 N系のV6ユニットは、北米市場に一代限りで投入されたXL7(グランドエスクード版のXL−7とは異なるモデル)のN36Aをボアダウンしたエンジンで、国内仕様はN32Aとなる。最高出力165kw(224ps)/6200rpm、最大トルクは284N・m(29.0kg・m)/3500rpm、圧縮比は従前の9.5から10.0に上げられ、従前のH27Aと比べて最大 出力は2000回転高く、最大トルクは500回転低く設定された。最高出力はて30kw増し、最大トルクは34n・m(3.5kg・m)太くなっている。
 これだけのスペックは、1.7tクラスにまで肥大化したボディをどこまで快適に走らせるのか心配があったが、低速時から高速ステージまで、オンロードにおける走行は申し分ないツアラー性能を見せる。18インチのホイールに履かせたタイヤはダンロップのスポーツ指向であるため、ドライでフラットダート以上の悪路になると限界が見えるが、SUVだと割り切るなら使い物にならないということはない。悪路に対応するためには、足回り自体の変更も必要なことは、3代目すべてに言えることだ。
 3.2XSの意外な部分は、その燃費にある。クルーズコントロールを併用した長距離移動では、ちょっとした渋滞や山道の駆け上りを4名乗車で行っても、リッター9km以上の成績を出してくれる。終始都市部での運用となると、この燃費は望めないと思うが、想像していたほどに悪くないのだ。強いて言えば、加速よりも減速に課題ありで、多くのXSユーザーが言うように、5速ATに2速ホールドがないこと。エンジンブレーキの効きは及第点に届かない。ESPの機能拡大によるヒルディセント性能は、オフロード系ヒルダウンなら4Hデフロック時でも4L並の減速をしてくれるが、このモデルが多用される通常路面での走行時には使えない。また、ESP関連の機械的な動作ノイズは、初めてエスクードに乗る人には不快さを伴うのではないかとよけいなところが心配になる。
 それにしても、室内の遮音性は驚くほどレベルが高くなった。XSのあとにテンロクコンバーチブルにでも乗ってみると、いやというほど違いがわかる。ただ、新開発されたといえども、外で聞いていると、相変わらずがさつな音がする。マルチシリンダーの宿命だろうか。
 
試乗はスズキ自販茨城本社さんにご協力いただきました。

3.2XSのインプレッションについては僅かな情報しかありませんが
TDB4W  らいのすの記録をご参照下さい。

 多くの人は、スズキというメーカーに軽自動車主体の、というイメージを被せるだろう。間違いではないが、正確な見識でもない。3代目エスクードは一気に、その質感や品質そのもの、果ては下らないとしか言い様のない“異音”とやらにまで手厳しい評価を受けるにいたった。それは、スズキのもの作りを今まで以上に高いステージで見る眼が出てきたということだ。
 はっきり言えば、3.2リッターなんてエンジン、作れると思わなかっただろう? と切り返したくなるのが、世論の偏見に対する乗り手の思いではないか。そして正当な評価は、これを手にした者にしか理解し得ない。きっと、スズキというブランドに躊躇して余所へ行った人には、その場所での納得と満足はあるだろう。しかしひょっとすると、もっと面白く愉快なものを素通りしてしまったかもしれない。
 時代の趨勢はもっと手厳しい。環境、税制、経済。80年とも100年ともいわれる周期の不況の荒波が、TDB4Wの生産終了という幕引きに導いた。2008年6月から2009年5月までの僅かな時間、3.2XSは傑作の輝きを放ち、次代の分岐点を示して役目を終えた。