TA01R  白  狼

 最初にこのコンバーチブルを目にしたのは、土砂降りのバーベキューサイト。
 当然ながら、自慢のオープンスタイルを見ることはできなかったが、自分がV6に乗り換えてから数年経っていたこともあって、とても懐かしい匂いを感じ取った。
 ちょっと猫背な20代の若者が、にこにこしながら言う。
 「まあほら、全天候型の車のミーティングですから」
 このちいさな車体に、まるで家財道具のような野営道具を詰め込んで、何処へでも出かけていく。
 晴れた日に、幌を開けた後ろ姿を眺めながら走っていると、TM−ネットワークがよく流れていた。
 泥んこになってスタックしても、それを楽しみにやってくるから、少しもしょげた顔をしない。

 白狼を走らせるシン大尉をイメージすると、多くの人は川原を思い描く。どれほど沢山のエスクード仲間が、その風景を一緒に楽しんできたことだろう。
 「こいつが動かなくなるときは、僕の全ても動かなくなるときです」
 本気で、そう語っていた。けれども、白狼はもっと素敵な巡りあわせを運ぶことになる。土砂降りの日から1年が経つ頃、焼き肉道具を積んでいたナビシートが、指定席に変わったのである。
 もっと、本気になれる生き方。白狼との別れのきっかけになる出来事は、今思えば白狼によって案内された、幸運の始まりだったに違いない。多感でやんちゃな若者が、大人の男に変わることを見届け、白狼は次のドライバーのもとへ委ねられていく。