TA01W  ハードトップS

 エスクードのクラッチが焼ける匂いを、このハードトップを初めて目にしたときに体験した。
 そこまで攻め込むドライバーって、どんな人なの?
 すると、照れ笑いしながらICHIROさんが降りてきた。
 「ちょっと熱くなっちゃいました」
 アポロキャップを後ろ向きにかぶり、額にうっすらと汗をにじませている。無造作に、腕まくりしたダンガリーの袖で、その汗をぬぐう。ICHIROさんの印象は、多くの人がそんなシーンを思い浮かべるだろう。

 歴代エスクードで唯一、スポーツ走行のためにリリースされた、エスクードS。
 スポーツ走行とは、もちろんダートトライアルであり、クロスカントリーを示唆する。だからハブのマニュアル装備は標準だし、リアにLSDが組み込まれている上、エアコンもオーディオもついておらず、バンパーが無塗装だからって気にもとめる必要はない。念のために付け加えれば、それは軽量化を狙ったスポーツタイプなのであって、エコノミーでは・・・決して無い。
 ところがICHIROさんのスポーツ走行は、メーカーが想定したステージを遙かに凌駕する。そのハードクロカンには、用意されていた装備やパーツ類では、次第に対応できなくなっていき、ショックの延長もブラケットの製作も、遂に自分で始めてしまう。
 「いや、僕も最初は林道を走っていたんですよ。行けるところまで行こうと工夫を凝らしているうちに、ね」
 このような面々が、エスクードの可能性を切り開いていった。ライトクロカンの「ライト」は、「軽量・コンパクト」であって「ちょこっと」という意味ではないことを、彼もまた実証してきた1人なのだ。