いつか星の海で
In the sea in the star some time

徹夜仕事が一段落して、
積み上がった吸い殻に気づく。
吸い過ぎのことよりも、
ひと息入れたい1本が無い。
ニコチンとタールを接種したい旧人類。
別に肩身が狭いとは思わない。
けれど・・・
ちょっと冷たい空気を吸いたくなる。

最寄りのインターから、
1時間と少しを北上する。
摂氏3度の峠道を駆け上がり、
星の海を映し出す、地上の銀河を眺める。
夜の時間はあまりにも短く、
空は蒼に、地上は碧へと息を吹き返す。
ディープブルーのノマドだけが、
そこにあった真夜中のなごりのようだ。

ノマドと共有していた時間もまた、
残り少ない。
月へと僚機を送り込み、
もう一度トライアルを繰り返すなか、
ノマドはじっと後方支援に徹してきた。
しかし管制官が役目を果たさなければ、
月への道は開かれなかったのだ。

最後の遠出の100kmを引き返す。
娘たちが朝食を作って待っていた。

「白井農場に連れて行って!」
「紅葉がきれいなんだって!」

もうひとっ走りしようか。
次のドライバーが
星の海へ旅立つ前に。
その星の海でいつか再び出逢うとき、
見失わない想い出を積み込むために。