『ドライブに行こう』
そんな唐突な書き出しの、いかにもという、
差出人の性格そのもののメール。
『それじゃぁ運転頼むね。道順はこれから指示するよ』

そう、ドライブへの誘いではなくて、メールの文面を辿って、ドライブへ出かけるシミュレーション。
地図で指示された道順を辿り、ルートに従ってイメージを膨らませていく、ちょっとしたゲーム。
友人はこのゲームを、VirtualのVレイドと呼んでいる。
この前は、かなり遠出をさせられて、碓氷峠にまで連れて行かれた。
初めてのときは、隣の県のちょっと有名なレストランだったけれど、これはお店の名前が書かれていなくて迷子になった。
2度目からは地図をインターネット上のマップサイトで閲覧しながら、ヒントになっている交差点やそこにあるスポットを検索しながら、釜飯を買いにいったりおいしいと言われるパスタを食べに行ったり、私の単独ドライブの限界距離をどんどん超えている。
今日のドライブは、ところどころ渋滞を避けて通る迂回があったけれど、どうも一本の国道をトレースしているみたい。
そしてなぜか、県境を越えたところで、
『あとはそのまま、道が終わるまで』
としか書かれていなかった。
「この先はどう行けばいいの?」
返信を出したけれど、答えは返ってこないまま、週末の夜になった。
3日間、県境までの案内を、何度も何度も繰り返してシミュレーションしているうちに、実際に出かけてみたくなった。
『あとはそのまま、道が終わるまで』
なんてアバウトなガイド。今回に限って、何故だろう?
地図上のその国道は、海岸線で別の国道に飲み込まれていく。
これは、今までで一番遠い。
こんな距離を、私は1人で走ったことはない。
無理かな。
無理だよ。
でも、県境までなら、行けるかもしれない。
行ってみようか。
私は寝静まっている黒柴のハナの横をそっと通り抜けて、クルマに乗り込んだ。
星のかけらを探しに行こう
虹がでたなら
One more time, One more chance
自転車でおいで
IT AIN'T OVER 'TILIT'S OVER
ランダムに収録したお気に入りを聴きながら、夜のドライブが始まる。
いつも混雑している街角をさらりとクリアして、幹線道路を気持ちよさそうに走る夜の色と同じボディーの私の車。
少し距離を離れたところを走っている前走車のテールライトが、なんとなく心強い。
ハンドルも心なしか、軽やかな気がするのは、自分のリズムで走れているからだろうか。
県境の町まで、あっという間にたどり着いてしまった。
どうしよう、ここまでで帰ろうか。
まだ疲れてはいないけれど・・・
コンビニエンスストアの駐車場に車を滑り込ませて、小休止する。
お茶とガムを買って、地図を開く。
国道は、まだまだずっと続いている。
携帯電話でメールをチェックする。
いくつかのメールに混ざって、あの友人からの返信が、ようやく届いていた。
『ようこそ、夜の世界へ。でもね、見せてあげたいものは、その道のずっと先にあるのな』
思わず、「おいっ」とつぶやいてしまい、溜息をついて夜空を見上げると、まんまるの月が雲の切れ目から昇ってくるところだった。
それを見てしまったのがいけなかった。
私は、コンビニエンスストアの駐車場を、左折で国道に出た。
とりかえしのつかない、というほど大げさではない、夜の世界のその先にある場所へ・・・
