岩手県は南北に長い。ここを縦に走り抜けなければ、東北が大陸っぽいという印象は得られない。陸中のリアスの海岸沿いでも良いし、東北道を一気に駆け上がっても良い。そして大陸のそこかしこに突き出ている、高原地帯を走りつなぐのも、けっこう面白いのだ。
 岩手の高原の一部は、まさにその陸中海岸の気候と内陸の気候が入れ替わる風の流れを見せる。つまりは気まぐれに天候が変化する。
 最初の阿原山高原を目指して菅生あたりで夜が明ける頃、北の空の東側は見事な朝焼け。また雨なのか? といういやーな予感がよぎるのだが、ともかく水沢インターから国道、県道を経て阿原山の麓にとりつく。
 すれ違いは困難かもしれない県道と集落を抜けて、阿原山の高原地帯まではほぼアスファルトの道。牧場の外延部に沿って、高原を見渡せる、宮沢賢治の歌碑まで登る。速度のでないぷらすBLUE(TA01R)ではちょっと到着が遅く、雲海の景色には間に合わなかった。雲は遙かに高度1万mの高さにある。
 阿原山の高原から、隣り合わせた天狗岩の高原に向けて、ダートに入る。向こう側の地方道まで8〜9kmの行程だが、前半はクマザサと雑草の張り出しがきつく、道幅も軽トラサイズ。3代目エスクードには覚悟が必要かもしれない。回り道も可能だが、1時間はロスする。そのままクマザサをかきわけて天狗岩へ。後半は森の中を進む平凡な砂利道。水沢から大船渡へ向かう国道にアクセスする地方道につながる。国道の旧道側を使って遠野へ出て、そちらの林道へ移動も可能だが、今回は奥州市側の偵察なので、種山高原に向かって国道のバイパス側へと引き返す。
 種山高原には、国土交通省の気象レーダーサイトがあり、周辺の林道や稜線から、位置確認のマーカーとして役に立つ。一般人は立ち入れないので、視認用くらいにしか使いだてできないのだが、このような施設があるくらいの、気象変化の観測点。遠方の空の雲は厚みを増してきている。
 8月末に利用する予定の星座の森キャンプ場を通過し、レーダーサイトを右手に置きながら牧草地帯の舗装路を抜けていくと、やがてダートが始まる。稜線上の森の樹木が、冬場に吹き付ける風の強さを物語っている。空はまだ高い。高原の西側を走る広域林道大森線との合流ポイントを探して、ダートを下り始める。高原の東側の森はなかなか深く、ストレートとワインディングの組み合わせのような林道が延々続き、途中に現れる分岐点では、星座の森を目指すための道標が置いてある。交通量はそこそこあるということだろうか。確かに四駆でなくても走りやすい。むしろオフロードバイク向け。対向車には出会わなかったが、速度の出し方には注意する必要がある。
 と思いながらツーリングマップルRの「白い道」に従って走ってきたのに、異なるルートをトレースしてしまい、大森線とはかけ離れた遠野市側の県道へ降りてしまった。仕方なく出入り口をチェックして、大森線の入り口へ向かって、県道で峠を越える。冬季閉鎖される県道で狭いとの看板はあったが、つくばーど基地の裏山なみである。
 広域林道大森線の北側は獣道に近いという。そこはパスして、途中から合流できる枝線入り口からアプローチする。このルートからでも距離的には損をした感はない。道自体は平凡な山道で、やがて星座の森キャンプ場へと周回し、戻っていくことが出来る。これを種山周回として、おおむね2時間というところだ。他の林道を散策すると、種山高原だけで丸1日さまよえる。
 奥州市を11時に発ち、再び東北道で西根までショートカットし、安比高原は後回しにして岩手町の石神の丘美術館へ急ぐ。この途中に走った県道17号線の一部は、北海道のような田園地帯の風景を見せてくれる。
 美術館では、写真家の須藤英一さんが「東北の道」をテーマとした写真展を開いていたので、ここを待ち合わせ場所にした。エスクード・コンバーチブルを迎え撃つのは、ユーノス・ロードスター。青森の白神爺。さんである。「東北の道の風景」といったら、白神爺。さんとそれらを眺めつつ、ああでもないこうでもないと話し込まなかったら、絶対に面白くない。と、お誘いしたら合流時間の1時間も前に到着して待っていて下さった。
 NA型のロードスターとコンバチエスク、この2台のツーショット。それもお互い同じ道を走っているシーンを、1カットで良いから撮りたかったのである(だから、れいんさんを連れて行った・・・というのが彼女が同行した理由ではない。ふらっと出かけていっても、いかに健全に遊んでいるかを見てもらっているのである)
 「それならもう行くべき所は一つだよ」
 と、ロードスターは国道4号を静かに走り出す。かと思えば、田代平高原に至るワインディングに入った途端に豹変。ついて行くのが大変! でもこちらよりブレーキ灯の点滅回数は多い。などなど全然ツーショットにならない追っかけ撮影をしているうちに、七時雨山荘に到着する。有名なイーハトーブトライアルのゴール地点。高原の牧草地に刻まれた、緩やかなフラットダートで、エスクードに花を持たせてくれる。
 「ロードスターの仲間たちも年に何回か、青森に遊びに来てくれるけれど、イベントにせよツーリングにせよ、呼びかけ続けていくのは大変でも、大切なことです」
 「それはやっぱり、見せたい風景があるから?」
 「いっぱいある。でもそのときにベストな天気かどうかは来てみないとわからない。それが面白いし、だめならまた行こうと誘ったり、来てくれたり」
 とりとめもない世間話をして、高原の麓まで一緒に走って分かれる。白神爺。さんは午前中雨に降られた風車のある高原へ写真の撮り直しに。僕らはおもしろ企画のポイント巡りに。

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