始まりは間違いなく南房館山なのだが、鴨川はすでに外房、さらに今回のハイライトに至っては市原の山間部で、内房や外房に接しているものの「ベイエリア」に括られるらしい。まさに漂流・・・
 

 早朝の館山に到着すると、もう立ち寄るところは決まっている。
 朝6時から地魚料理の食える「海風堂~sea foo do~」だ。春に漂流した「02」で初めてうかがって以来4カ月。しかし女将は
 「あらお久しぶり! 何時に出発してきたんですか」
 つくばーど基地からここまで、ほぼ200キロの道のりだ。それでもこの時間帯に美味い魚料理をいただける。それだけでここに走る価値がある。
 この日はカツオの漬け丼を注文した。
 「戻り鰹の時期には少し早いんだけれど、召し上がってみてください」
 そりゃそうだ。漬けているのだから初鰹とは言わないまでも春ものだよね・・・と思ったら、教えてもらわなければ戻り鰹と勘違いしそうなほど脂ののりがいい。ことしは鰹が釣れないと、仕入れ値三倍とまで報じられていたのはどこの港の報道だったのだろう。

 4月のとき、春が遅いと女将は寒がっていた。
 この夏は聞くまでもないけど聞いてみたら
 「もうねー、尋常じゃない暑さですよ。外に出たくないもの」
 そうだよねえ。と、引きこもってもいられないので仕事を開始するために席を立つ。どうしたことかそのあたりから強い風が吹き始めて、日差しは強いけれど清々しく、表を歩いてもあまり汗をかかないですんだ。

 
 仕事はどうにか午前中に終わらせられたが、今回は寄り道なしで鴨川に移動するので、「いしかわ」には昼どきど真ん中の到着になりそう。
 混雑しているのは必至だろうからと、13時すぎに着くように調整しようとサザエ最中やクジラの茶饅頭の和菓子屋に立ち寄ろうとしたら、なんと臨時休業。うわ、なんだかいやーな予感がする。とは言っていられない。鴨川へ行くだけ行ってみる。
 12時40分に店先にたどり着くと、今回は暖簾がかかっていた。しかもだ、前回は勘違いしていたらしく、店舗の玄関と思っていたのは玄関ではなく、臨時休業の看板がかかっていた方が正規の入り口だったのである。
 いやこれはわかんないよ常連でもなけりゃ。という一見丸出しで店内に入ると、一卓だけ空きがあった。どうにか席に座れたという状況なほど家族連れが沢山来ている。そうか、世間は学校が夏休みだものね。
 「オルカ丼と、刺身の合わせ。それで、オルカ丼のご飯は半分にしてください」
 オルカ丼とは看板献立の一つで、要するにお頭もついた(別になっている)大海老と野菜数種類の天丼のこと。シャチとは直接関連がなさそうだったが、
 「オルカ鴨川FCという女子サッカーチームが地元にあって、それを応援してます」
 大海老天がシャチの尾ひれのようにも見える。天丼用のたれは好みで自らかけて食う趣向。白米を減らしてもらったのは正解だったが、天ぷらのころもが濃厚すぎ。野菜天はさらっと揚がっているのになぜこうなの?
 「小魚系が切れてしまっていて、地魚主体で作りました」
 刺身の盛り合わせがやってきた。優に4人前のボリューム。食いきれるのかこれを? だが地魚もマグロもアジもいくらもうまい。イカとかタコなんて入っていない。とくにカワハギがぷりぷりしていて、申し訳ないけどオルカ丼の負けだ。
 外は館山と違って無風の猛暑。山沿いを走って日射を避けよう。


 山沿いというか山越えというかの、国道県道を外しながらふたつほど峠を越えたら、いつの間にか市原市域に入っていた。もはや内房でも外房でもない。こんなところなのにベイエリア地域なのである。
 地方道に出たところで「チバニアンこっち、1.5キロ」という看板を見つけた。
 チバニアン! あの地磁気逆転の確認された、千葉県とイタリアにしか無いという希少地層の崖が観られる、さらに学術的にイタリアと競って勝ち取ったあれだ。
 帰路と反対方向だがそりゃもうそっちに寄り道だろうと案内板に従って行ってみたら、プレハブのビジターセンターが入り口横にあって、よくよく見たら「見学できません」
 今回はここで来たか(いや和菓子屋もそうだったけど)
 見学付帯施設の整備工事が始まっていて、来年夏まで川筋に降りられないという。がっかりなのだがビジターセンターの学芸員、石井さんの歯切れよくテンポも素晴らしい解説がとにかくわかりやすくて面白い。
 地磁気逆転は、その地層に混ざっている砂鉄が北を向く方向の違いで判別できるという。その逆転現象の境界線に、約80万年前に大規模噴火し偏西風で運ばれてきた木曾・御岳山の火山灰層が横たわり、同時代のあとに地磁気が動いたそうだ。
 「1万年単位でみると、地磁気(の極点)なんてしょっちゅう動いてるんですよ。太古赤道より南にあったものが、現在はあちこち迷走して北極付近にまで動いているんですが、なぜ逆転現象が起きるのかは、まだ解明されていないんです」
 石井さんたちは毎年、研修としてつくばの地質標本館や石岡の地磁気観測所に出かけるという。今年は笠間の石切り山脈も見学に行くとか。思いっきり近所の話になってしまった。