《つくばーど in 筑波》

   ほとんどまんまのタイトルではないか。
    しかし筑波山を走るつくばーどとなれば、いやでもそうなってしまうのだ。
   意外なことだが、地元の林道に仲間と出かけるのは、これが初めてだ。
   10年前だったら、ダートを走れる距離も時間も、今の5倍はあった。
   新しく切り開かれた林道も、早々と舗装化されそうな気配。
   今のうちに、エスクードの走る姿を撮っておきたい。
  「つまり助手席で運んでもらってカメラを構えるのに都合がいい人数だと」
  「そ、そんなことは・・・これっぽっちも思ってないですっ」
  「じゃあ自分で走って撮影ポイントに行く?」
  「・・・やっぱ乗っけてってください」

 どんなに気負ってもツーリング以上でも以下でもない、林道往。
 珍しいことだが、たった3台といえども、集まったエスクードが全てショートホイルベースだった。
 珍しいというより、初めてのことだ。

 赤穂の地からやってきた、エスクードのプロフェッサーM。
 彼は実に7台のエスクードを乗り継ぎ、今はエスクードから離れているものの、8台目を考えているという。
 プロフェッサーたる所以は、そのクルマへの知識や技術ノウハウだけでなく、エンドユーザーへの愛情もひっくる
 めてのエスクードの 大家であるということだ。
 多くのエスクユーザーが、一度は彼の協力を得ているという事実は、今なおゆるがない。
 もうひとり、久しぶりにやってきた彼は、空を飛ぶことに憧れ、実際に飛び始めていたという。航空機を使ったそれではなく、パラグライダーで風に乗る楽しさを手に入れ、彼はまた一回り大きくなっていた。
 そして、一時帰国していたものの、この日の夕方には海外出張の便に乗らねばならないという、3人目の彼も、時間の許す限り隊列に加わり、雨上がりのツーリングに同行してくれた。

 

 梅雨のさなか、森は静まりかえる。
 雨のあとの沢の流れと、木々の間を囀る鳥の声だけが聞こえる。
 その向こう側から、聞き慣れたエンジンの音が近づいてくる。

 僕はといえば、これもまた久々に、颯爽と山道を走るエスクードの姿を、鳥瞰するポジションから眺めていた。
 8バルブと16バルブの、1600ccのエスクードは、それだけで明らかに音が異なる。らすかるの24バルブとなれば、2代目の2000ccとはまた別の、そう、もはや別のクルマ。けれども、それらを受け入れる森と、道はたった一本だ。
 同じエスクードでありながらも、異なるエンジンの響きが、新緑の森に流れる、ほんの わずかな時間。 しかしこれが、爽快な気分にさせてくれる。
 1000mには少し足りない高度に登ると、眼下の関東平野が少しずつ広がり始める


 気が付けば、筑波の山並みの中を、50km以上走り抜けていた。
 グラベル、コンクリート、アスファルト、さらにぬかるみと、ずいぶん贅沢に走った。
 梅雨の合間のミニツーリングと、相も変わらずのエスクード談義のひとときは、あっという間に過ぎ去ってしまう。
 泥だらけのクルマが通り過ぎ、まだ乾いていないダートに刻まれた轍が残る。
 6月の空は、晴れ渡るところまでは望めなかったが、嫌われることもなかった。