《アルバトランダー602》

 サイバーフォーミュラ選手権の黎明期には、砂漠や山岳地帯、表現をステージとした高速ラリーというレギュレーションが存在した。これはサーキットだけが自動車レースの舞台ではないというアピールや、俗にいうオフロード走行におけるサイバーシステムサポートの安全性を見出す可能性が期待されていたのである。
 そのため、サイバーシステム搭載車のカテゴリーにも幅がもたらされ、ラリー専用車が台頭する時代が少なくとも15年は続いていく。しかし、大勢にあっては高速サーキットでのハイスピードレースに傾倒していくのが2015年以降のサイバーフォーミュラの情景となった。
 そのなかで、アルバトランダー602は純然たるラリーカーをベースに開発された最後のマシンとなる。フロントノウイング状スポイラーこそフォーミュラマシンへの進化と葛藤を思わせるが、ビスカス式四輪駆動を採用したボディやV型8気筒エンジンは、あの葵自動車によるものだ。



 サイバーマシンとしての特徴は、リアウイングとして装備されながら、これを独立して飛行させ地形や障害物サーチを行うバードサーチャーに見られる。サイバーシステムによるナビゲーション能力も高いのだが、このマシンをパイロットした大友譲二は天性の感覚によるコースの読み取り、臨機応変な自然変化への対応などでマシンの性能を引き出してきた。
 そのようなカンを一切受け付けないサイバーサーキットを用意したドイツGPにおいてスーパーアスラーダと絡む大事故を誘発し、大友は重傷を負う。このサーキットでのレースに限らず、彼はそれまで参戦してきたサイバーフォーミュラ各コースでも、一切サイバーシステムを使っていなかった。
 そのことはさておき、可変シャーシという新機軸が登場し、走行中にラリーモードへの変形機能が登場してきたことで、602の役目も終了していく。改良型とされる603もフォーミュラタイプへと大きくモデルチェンジされる。そのうえ選手権自体からラリーステージが廃止され、アルバトランダーのようなマシンはラリーレイドに特化したレースでなければ活躍の場も無くなっていく。