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ショッカーは裏切り者を許さない。
あらゆる手段を講じて、裏切り者の抹殺を遂行しようとする。改造人間バットは、本郷猛と一文字隼人の、共通の拠り所である緑川あすかを拉致し、彼等を精神的に追いつめようとした。
上空を飛び去るバットの声高な笑い声に唇をかむ猛を見て、これはどうやら敵わんなと思った隼人は、意を決した。
「お前、惚れた女のために死ねるか?」
振り向きざまに、猛は無言で頷いた。
「それじゃあ俺たちの敵は共通だな。奴らのアジトに乗り込もうぜ」
「君は・・・リジェクションをどうするんだ? ショッカーを壊滅すれば、血液交換ができなくなるぞ」
「そのときは、そのときだ」
「・・・わかった。俺と来てくれ!」
猛は隼人を乗せて、サイクロンを立花レーシングへ走らせる。
「親父さん!」
猛はサイクロンを隼人に押しつけて、ガレージの中に駆け込み、パイプ煙草を燻らせている立花藤兵衛に向かって叫んだ。
「親父さん、あのバイク、もう1台貸して下さい!」
「何事だ? そんなに大慌てで」
「お願いします! 時間がないんだ」
立花は怪訝な顔をして、表でサイクロンのサイドスタンドを蹴り出している隼人を見ながら、
「彼が乗るのか? やめておけ。普通の人間には乗りこなせる代物じゃあないんだ」
「彼は・・・俺と同じなんです。俺たちは・・・」
「俺たちは?」
猛は言葉につまった。俺たちはいったい何なんだろう? 立花の親父はなぜ、自分が普通ではなくなったことに気がついているんだろう? それに、自分と隼人の関係とは・・・
猛の背後から、隼人が大声で怒鳴った。
「俺たちは、ライバルで・・・正義の味方さ!」
猛は驚いて振り返った。隼人は笑っていた。
「言ったじゃないかよ。俺たちの敵は共通だなって」
ぶっきらぼうな対話だったが、立花にはそれで充分に彼等の真意が伝わってきた。
「1000RRのサイクロンはそれ1台っきりだ。だが猛、お前がそいつを乗りこなしたあとに使わせようと思っていた大きいやつ、ボルドールがある」
立花は、ガレージの隅に置いてあったオートバイにかぶせてあるシートを取り払った。1300ccの大排気量マシンが、そこに眠っていた。
「こいつは過激なセッティングだ。お前さん、ぶっつけ本番で乗れるかい?」
立花はキーを隼人に手渡しながら、にやりと笑った。
「上等さ。とっておきってのは、俺は大好きだぜ」
「よぉし、その勢いを買ってやろう」
立花も笑い返した。
「猛よ、お前の失踪と世間を騒がせている怪事件に、怪人とやらの噂は、つながりがあると思っていた。サイクロンを与えてみれば、あっさりと乗りこなした。お前が失ったものを取り戻せるかどうかはわからんが、とりあえずスロットルを開ければ、ライダーが目指すのはゴールラインだ」
「・・・はい! 親父さん」
「行ってこい、正義の味方とやら。ここはお前たちの過酷なレースのスタートラインで、ピットで、そしてゴールだ。だから必ず戻ってこい!」
猛と隼人は、お互いの意志を確かめるように顔を見合わせると、同時に構えをとる。腰に風車のベルトが出現し、その回転と同時に瞬時に強化服が彼等の体を包んだ。2人の手には、異形のマスクがあった。
「では!」
「行ってくるわ!」
2台のサイクロンが咆吼を上げ、かん高く、また図太いエキゾーストノートを残して駈け出していった。
「仮面の男たち。・・・仮面・・・ライダー、か・・・」
立花は2人を見送りながらつぶやいた。
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