《CYCLONE-1 with ORIGIN & IMPROVED》
 ショッカーの暗躍は、未だ人知れず、夜の闇に紛れるように続いていた。さる事情から高校教師を辞した本郷猛は、当座の生活を維持する必要もあり、自動車整備士の資格をを取得しながら、立花藤兵衛のもとでバイク修理のアルバイトに明け暮れている。
 立花には師弟関係のような恩義もあり、自分がそこにいることで、ショッカーの魔手が立花にまで及ぶような危険に巻き込みたくない反面、他に頼る者もなかったのだ。
 だが行きがかり上、2台のサイクロンを“仮面の男達”に分け与えた立花は、自ら彼等の戦友として、参謀として心を開いていた。

 「お前の身体能力と同等の改造人間を量産するばかりか、生物と機械の合成人間まで造り出すショッカーと渡り合うには、お前自身が奴らを上回る“性能”を引き出さねばならん。
 改造人間の更なる改造は俺には不可能だが、サイクロンを今以上の戦闘力にスペックアップすることはできる」

 立花はそう言って、パレットに載せられている梱包を解いた。

 「親父さん・・・これは・・・?」
 「RC211VのV型5気筒エンジンは、実はサイクロン1号には既に搭載されている。motoGPのレギュレーションが変更され、HRCではRC212VからV型4気筒に変更したんだが、俺たちのレースは無差別級のルール無し・・・いや、正義というルールだけは別だな。まあとにかく逆をやろうというわけだ。
 後ろ側の2気筒ブロックを、前側3気筒ブロックに換装した特注エンジンだ。奴らの話では、開発段階で300馬力を優に超えてたそうだ」
 「や、やつらって、まさかエッ・・・」
 「それは聞かないことだ。お前も一文字も、2人っきりの戦士ではない。それを心にとどめておけばいい」
 「300馬力ですか」
 「もちろん、改造されたお前の強化筋肉がもたらす瞬間的なパワーにも耐えられるよう、フレームだけでなくペダルやレバー類にいたるまで、新素材を使っている。奴らとの取引は、その新素材をこっちから提供することで成立したのさ」
 「そんなもの、どこから・・・まさかNA・・・さ」
 
 猛は口に出した名前を押しとどめた。立花の背後には、ショッカーとは全く異なる裏世界のネットワークがあるらしい。

 「1号でマークした時速400kmの世界なんて、俺の若い頃には夢のまた夢だったが、今じゃお下がりのエンジンでなんとかなっちまうんだから、エンジン屋の仕事もたいしたもんだ。今度のこのエンジンは、2号にも引けをとらんよ。重量はやや増えるだろうが、扱いには慣れることだ。すぐに乗りこなせるさ。」
 「そういえば、親父さん。あっちのマシンはなんですか?」

 猛はガレージの隣の部屋に飾ってある、サイクロンと同じカラーリングの、古いカウルを纏ったマシンが気になっていた。排気管が6本もある、異様な風貌のマシン。猛がここで働くようになる前は、あのマシンは無かったのだ。

 「あれか? あれは俺のアメリカ時代のやんちゃの証だ。時速300kmに挑んだ草レースチームの名残だよ。1号改のV型6気筒というコンセプトは、あれがオリジンだ」
 「へえ・・・親父さんのアメリカ時代って、海軍にいたって前に聞いたけれど・・・」
 「モーターサイクルクラブ・『RIDING CYCLONE』というのが、艦載機乗りの間にあったんだよ。笑っちゃうだろ? 音速でぶっ飛ぶ連中が、バイクで300kmを躍起になって競ったのさ。しかし原子炉の制御よりも、ガソリンエンジンの、この手で直にいじれるおもしろさは、あいつらが教えてくれた」
 立花はいたずら小僧のような笑顔を見せた。
  

※お断り この物語はつくばーどオリジナルであり、「仮面ライダーtheFIRST NEXT」には、直接結びつきません。