《19世紀の超技術》
 地球から240万光年の彼方、M78星雲の文明が地球を訪れ、その超科学技術を埋没させていた時代。人類は内燃機関の発明に成功していたものの、自動車は陸を、船は水上を進むことが常識であり限界の枠の中であり、動力飛行機の初飛行は1903年まで待たねばならなかった19世紀末。1889年に開かれたパリ万国博覧会会場近くに出現した巨大な装甲車は、それまでの乗り物の常識を覆す、恐るべき性能を備えていた。
 イタリアの資産家・グランバァ家が栄華を極めていた頃、当家のお抱え技師として働いていた青年、ハンソンが開発したこのタンクは、当時の先端技術である油冷直列6気筒サイドバルブエンジンを搭載し、ハイドロニューマチックサスペションで6輪駆動という自走能力を基本に、車体前後に備えた2対の汎用シリンダーによって、悪路も乗り越える4脚自立歩行を可能とした。後部シリンダーには4枚羽根スクリューが格納され、水上航行もこなす。そればかりかスクリューはプロペラとしても活用され、車体上部のターレットから展開する熱気球と組み合わせ、空を飛ぶことさえ実現していたのだ。
 後に二度の改良が施され、潜航能力、前部シリンダーへの破砕ドリルと後部シリンダーへのジェットエンジン(!)装備、主砲のレーザー砲化(!!)まで行われ、文字通りの万能戦車へと成熟した。

 「科学者に必要なものは直感とイマジネーション」

 この言葉は20世紀に異端の地球物理学者として名を馳せた田所雄介博士の名言だが、ハンソンもまた同じ言葉を、田所博士よりも84年も前に語っている。彼も天才的な科学者であり、エンジニアなのだ。万能戦車は、グランバァ家が没落し、負債と家督だけを背負った一人娘のグランディスにとって、数少ない財産の一つとなった。ハンソンの同僚で用心棒にして名ドライバー、サンソンの操縦によって、“グランディス一家”の拠り所となる。
 折しも地上では、M78星雲の失われた文明を発掘した一味がネオアトランティス帝国を名乗り、世界征服に乗り出していた。その反勢力も抵抗を繰り広げていたが、保有技術はやはり発掘文明だった。反勢力・ノーチラスに荷担したグランディス一家とグランディス・タンクは、改造を受けるまでは純地球産の技術の結晶として、宇宙からの文明と対峙していたのである。