《時効の彼方に潜むマシン》
 総武警察署時効管理課の警察官・霧山修一朗は、趣味で調査をしていたとある事件の資料検索のために、警視庁を訪ねていた。その膨大な迷宮入りデータバンクの中で、彼は、調査対象とは全く関係のない、Σ団事件の捜査ファイルを発見した。
 「お、このバイク、なんかかっこいいなあ。本庁のTRCSとは、趣が違うよ、これ」
 そのオートバイ、マシンホークは、犯罪組織Σ団が開発したスーパーバイクだが、詳細なスペックは、Σ団と戦い続けた警視庁にも掌握されぬまま、使用者の秋月玄ともども行方不明のまま、時効が成立して久しい。
 霧山は秋月玄という拳法家と、このマシンホークに趣味的な興味を抱いてしまった。所轄としては越権行為ながら、誰からも忘れ去られた事件の調査に、彼が没頭しても、誰もとがめる者はなかった。
 「マシンホークというバイクは、どうやらΣ団と戦った本当の捜査官、大門豊さんが使っていた、マシンザボーガーというこれまた謎のバイクがベースになっているんだね」
 霧山は推理を語り始めた。
 「Σ団は一度、大門さんからマシンザボーガーを奪ったことがある。実際には奪ったザボーガーにリモコンを取り付けて、大門さんを襲ったらしいけれど、これには失敗した」
 Σ殺人基地事件とタイトルされたファイルを閉じて、彼は続けた。
 「しかしこのとき、捕獲したザボーガーは、Σ団の立体レントゲンとかいう装置によって解析され、構造や機能を分析されてしまったんだね。それでΣ団は、対ザボーガー兵器として、やはりロボットに変形するタイプのバイクを造り上げた。けれど、このマシンホークは変形できずに、バイクのまま使われていた」
 霧山は、トップシークレットとされていたはずの大門豊捜査官に関する資料も、なぜか手元に置いていた。
 「ザボーガーがロボットに変形できた理由のひとつは、大門さんの体内に埋め込まれていたという、電極回路に秘密があるらしい。そこから発生する怒りの電流こそが、変形の起動を促すシグナルだったんだ。秋月は、この電極回路を持たない。ホークに変形機構が備わっていたのに、起動シグナルが存在しなかった」
 それでもなお、霧山にはマシンホークの独特のシルエットが印象的であった。Σ団は壊滅したが、秋月玄とマシンホークは、この数十年、まだ消息もつかめていない。
 「さて、ちょっと、ある老人に会ってこようと思います。場所は言えませんが、太陽の家という養護施設に、ホークの謎を解く鍵があるんです。もちろん、僕は趣味で調査をしているので、この老人には、『誰にも言いませんよカード』を手渡すつもりです」
 霧山はそうつぶやいて、数日通い詰めた本庁の資料室をあとにした。

 

※ いつものようにつくばーどオリジナルなお話ですので、ご理解の程を、よろしくお願いします。