《マグナビートル》

 西暦2050年。ネオ・トキオの機動メカ分署マグナポリス38には、「ウラシマン」と呼ばれ、超能力者ではないかと噂される機動刑事が存在した。
 彼の名は浦島リュウ。実は1983年の世界からタイムスリップしてきた若者だ。
 過去・現在・未来へと続く物理法則に逆らって、過去から未来へ転移する事をウラシマ・エフェクトといい、その時の影響によって超能力を身につけた者を、人は「ウラシマン」と呼んだらしい。その時間転移理論と「ウラシマン」の超能力因果関係に、どれほどの真実性があるのかは定かではない。浦島リュウという名前さえも、彼がこの時代で生きていくための方便なのだ。
 記憶を失ってしまった彼が、唯一所有していたものは、タイムスリップの際に居合わせた野良猫を除けば、年式不明のフォルクスワーゲン・ビートルだけだった。
 「レーザー光線銃もワッカ(タイヤ)の無い車も自分には扱えない!」と、彼は倉庫に眠っていたS&Wチーフスペシャルを改造し、マグナブラスターをハンドメイドする。そしてワーゲンにも改造を加え、マグナビートルが誕生した。
 マグナビートルのドライバーシートは、機動メカ分署の統括責任者である権藤透警部が与えた特殊装備で、「BP」のスイッチを押すとにより、バトルプロテクターがリュウの体に装着されるシステムを有する。バトルプロテクターは、レーザーを左腕と左足の装甲で跳ね返すことが出来る機動装甲だ。機動メカ分署の主たる捜査対象となる犯罪組織ネクライムのテロリスト・スティンガー部隊とも互角に渡り合える戦闘性能を持つ。
 浦島リュウはもう一人の機動刑事クロード・水沢とともにネクライムの犯罪阻止に奔走し、その戦いの中で自らの過去を追い求める。
 フォルクスワーゲン・ビートルは、フェルディナント・ポルシェが、当時ドイツを支配していたアドルフ・ヒトラーの援助を得て作り出した理想の大衆車だった。フォルクスワーゲン・タイプ1とコードされ、ドイツが誇るグローバルスタンダードモデルが誕生するが、第二次世界大戦を挟み、ドイツ国民の理想の足として親しまれるのには、しばらくの年月を経た。ビートルという愛称はアメリカで与えられた、タイプ1の独特のスタイルへの人気の現れであったが、開発中、ポルシェ博士も「コフキコガネムシ」と呼んでいた。
 1940年代に生まれたこのクルマも、浦島リュウがタイムスリップし、飛び越えてしまった1990年代には、最後の生産・販売を行っていたメキシコでも現地生産が終わっている。
 1994年のデトロイト・モーターショーで、コンセプト1と名づけられたデザインスタディが公表され、大きな反響を呼び、予定されていなかった市販化が決定した。それが98年に登場したニュービートルだ。
 先代は半世紀以上、世界各国で愛された。このことを考えれば、2050年のネオトキオでは、ニュービートルそのものもモデル末期を迎えているのかもしれない。だから、タイムスリップしたリュウは、いきなり遭遇する“まったく新しい見たこともない2代目”を、ポンコツのロートルカーとして目の当たりにしたことだろう。そこには、自分が乗っているビートルとの、世代を越えた愛着の共有が生まれていたかもしれない。
 ここに引き合いとして紹介するのは、ニュービートルをベースとした4WD仕様の「デューン」。