《帰ってきたMAT》

 21世紀初頭、国連常任理事国での決議がなされ、世界各地で頻発している異常気象、地殻変動、環境汚染の影響を受けた「巨大生物」への専門対策機関が、再び設置されることとなった。
 過去の専門組織の実例の中から、最もランニングコストが低く、少数精鋭ながら機動力を効果的に発揮していた『怪獣攻撃隊・MAT』の運用マニュアルが採用され、これを下地に定款と活動規範をアレンジし、新たな『MAT』の編成が開始された。
 その中枢部は国連ビル内に置かれ、世界各国に次々とディビジョンが配備された。日本においては、国会与党の強行採決という世論を敵に回しかねない法案決議が生じたものの、既に数度の“怪獣災害”を経験していた国民感情が、これを許した。
 なにより、30年ほど前に、怪獣や宇宙人からの国土防衛を担ったあの赤い流星マークには、少なからず民衆の信頼が宿っていたようである。

 東京湾の浦安沖合に、200m×800mの鋼鉄の箱が浮かんでいる。海面から見える高さは10m程度だが、海中にはさらに20mの深度まで構造体が沈み込んでおり、その内部にMAT極東支部の司令部が整備されている。地上とは沈埋管トンネルによって、東京・葛西地区と連絡されているが、状況に応じては、これを切り離して自立航行も可能な「函」。便宜上、鋼鉄と言われているが、その構造体の材質は、特殊合金と新素材が利用されている。
 ギガ・フロートと呼ばれる人工島が、いわゆるMAT本部なのである。フロート上部は緑地とバイオマス・実験プラントを敷き詰めてあるが、これは可動床で、VTOLやVSTOLの離発着が可能だ。羽田空港と共有の、しかし怪獣災害発生時には最優先される航空管制網も組み上げられている。
 ただし、MAT極東支部の諸機能は東京湾岸の数カ所に分散されており、ギガフロートにはその本部機能と最前線チーム分の諸装備のみが集約されている。フロート基地の規模から考えると、12機のマットランサー(旧1号機の後継機)並びにマットアローU(旧2号機の改良機)と、4機のマットジャイロU、3艘のマットダイバーという防衛力は、たとえば航空母艦のそれに対して、極めて小さい。それでも設立初年度には旧MATの1.5倍の予算編成が実現しているという。
 組織名称は、M.A.T.がそのまま継承された。
 ただし今回は『Monster Arresting Tactical』の略称であり、その定義は、怪獣攻撃隊(Monster Attack Team)であった前身組織のそれとは少し異なっていた。怪獣捕獲戦術部隊。もちろん世論の風よけとしての方便に過ぎない。覚醒・出現した巨大生物の足止めを行い、周辺への被害を最小限に食い止める。そのために必要な手段のうちには、捕獲を越えた行動も含まれているし、作戦運用に用いられる装備も、自衛隊の保有戦力とは異なる能力が与えられている。
 そのひとつ、マットコマンダーは、航空戦力に比べると、大きな特殊性は持ち合わせていない。指令車として移動指揮所を主任務とするが、国民向けの広報車輌としての意味合いが強いかもしれない。そのため、通常時は固定武装は施されておらず、トランクリッド内に携帯式の中型火器が収納されているだけである。
 指揮車という点においては、通信機器、本部ホストコンピュータとリンクする調査分析端末などの機器類が、特殊装備と言える。
 MATの車輌は、緊急時にはポップアップ式の赤色回転灯とサイレンを起動し、緊急車両としての走行が行われる。また、遠隔地や離島での地上任務の際は、コマンダーはマットジャイロUによって空輸され、作戦内容に応じてアウターロールケージと組み合わせた外付け火器類を取り付けることもある。
 一般的には、当時のモデルを復元したマットビハイクルtypeRが巡回・調査任務に、不整地での野戦時にはマットジープが今なお現役で充てられており、マットコマンダーは主に、新生MAT初代隊長の坂田次郎が現場に赴く際に運用している。なお、コマンダーはトルクスプリットコントロール型4WDに改造され、油圧式車高上昇調整機構を有しているとの噂もある。
※とっくにおわかりでしょうが、つくばーどによるオリジナルマシンに過ぎません。