《青鬼のつむじ風》


 奈良県吉野に所在する対魔化魍撲滅組織「猛士」は、戦国時代に組織の原型が組み立てられた。それまで忌み嫌われていた“人であることを棄てたモノ”、鬼の存在を認め、“人に仇成すモノ”、魔化魍を退治する彼ら鬼の後方支援を、「猛士」は現代に至るまで連綿と続けている。
 彼らは鬼が有する特殊な錬金術や加工技術を預かり、その技術をさらに錬磨し、或いは時代ごとの先端技術を付加して、鬼が扱う音撃武器や探査用ディスクアニマルなどの開発を行っている。
 しかし、それら全ての道具類を、鬼の伝統技法にのみ頼っているわけではなく、魔化魍探査や追跡のための移動手段に関しては、市販の車輌をそのままに貸与しているようだ。
 鬼の1人、威吹鬼(イブキ)に支給されている専用バイク「竜巻」も、市販のHONDA Shadow750である。彼の扱う音撃管・烈風とディスクアニマル類を車体後部のサイドバッグに収納し、リアキャリアには野営装備格納用軟質トランクを積載するが、これらのバッグ類は通常のオプショナルパーツだ。威吹鬼こと和泉伊織がバイク好きであることから、各部のチューンナップが施され、吊しのShadowに比べると、基本性能は上がっている。また、ヘッドライトは逆輸入車のヴァルキリー・ルーンと同系のものが使われている。
 威吹鬼は二年ほど前まで弟子を持たずに単独で魔化魍退治を行っていた経緯があり、最近までヴァルキリー・ルーンを常用していたらしい。このヴァルキリー・ルーンタイプは現在、関東支部の響鬼に対して「凱火」という呼称のマシンが支給されている。
 威吹鬼は、関東支部への赴任に弟子を伴っており、弟子の天美あきらを乗せて現場に赴く必要から、専用バイクをShadowに変更したという。
 余談だが、「猛士」は陰の組織ながら地域社会に広く浸透し、様々な企業のスポンサードを得ているものと思われる。その一端が、組織のマークを刷り込んだ野営装備類を納品する登山用品メーカーがあることや、四輪車、二輪車ともに車輌関係のほとんどをHONDA製で固めていることがあげられる。組織内部での車輌採用基準は不明だが、HONDAに対する信頼の度合いは絶大のようだ。
 これらの車輌は「猛士」本部が管理し、鬼の要望によって仕様や車体色を選定し、貸与する。そのため、全ての車輌が奈良県ナンバーとなっている。竜巻と同型のオートバイも複数台が登録されている。そのうちの1台、「津波」は、車体色がガンメタルで、赤いラインが施されたもの。バッグ類には茶色の革製品が用いられている。ただし、どこの鬼が使用しているかは不明だ。