《白いカラス》

人造人間ハカイダーに与えられたモンスターバイク。

開発したのはギル教授率いる秘密結社ダークの技術陣と思われる。
 暗黒の戦士ハカイダーに対して、皮肉のような純白のマシンは、冷酷残忍、時として凶暴なバーサーカーであるハカイダーへの封印結界であった。

白いカラス。その名前に込められた呪いの意味があることを、名付けた自身であるハカイダーでさえ、知るよしもない。
 その呪いは、以下の神話の物語に起因する。



テッサリアの山岳地方に住んでいたラピテース族は、プレギュアース王のもと、戦闘国家を作っていた。その王、プレギュアースがペロポネーソス地方への偵察で、プレギュア市を何年も留守にしていたときのこと。修行時代の太陽神アポロンが、デルポイ神殿へ赴く途上でプレギュア市に滞在し、王の娘コローニスと恋に落ちた。

コローニスはアポロンの子供を身ごもり、アポロンはデルポイに出向き、その留守中、白いカラスを彼女の見張りに付けておいた。

白いカラスは話すことが出来、目がよく効き、人間を侮蔑するところもあったが、世の中の出来事をアポロンに伝えていた「使いカラス」として畏れられていた。

あるとき、白いカラスは道草をしていてアポロンの罰を受けることとなった。その時、白いカラスは「コローニスが浮気をしています」と嘘をつき、話を逸らそうとした。この話を真に受けたアポロンは、一矢でコローニスを射殺してしまう。

しかし白いカラスの嘘が発覚し、アポロンは後悔しながらコローニスを火葬にし、その炎の中から子供を取り出して、いて座のケイローンに養育を頼んだ。この子どもは後に、名医アスクレピウス(蛇遣い座)となる。
 ケイローンのもとから帰ったアポロンは「白いカラス」に罰を与え、言葉を奪い取り、全てのカラスを同時に呪ったために、ヒトの世のカラスは全て黒焦げになってしまった。カラスの体は、それ以来、黒くなったと言われている。

アポロンは黒焦げになった白いカラスが、喉が乾いてもコップ座の水を飲めないように、星の釘で天にはりつけにして、動けなくしてしまった・・・


 太陽神とはおそらく、世界征服の野望に燃えたギル教授の、暗闇からの到達点であったのだろう。ハカイダーという人工のボディーは、光明寺博士の脳髄を制御デバイスとして誕生したが、それはキカイダーゼロツー・ジローを戦略的に追いつめるための尖兵としての扱いであった。
 その作戦が好結果を収めれば、パーツの交換によって半永久的な命を手に入れられる。ハカイダーは、ギル教授が帝王、太陽神として転生・君臨するための「器」だったのだ。その王の下僕として、ハカイダーのマシンは白いカラスと名付けられていた。

 しかし、ハカイダーにその名を思いつかせたのは、ハカイダーを制御している光明寺博士の脳髄。光明寺博士の閉ざされた信念が、ハカイダー自身に呪詛の言葉を与えていたのである。

「太陽神は太陽そのものには勝てぬ。太陽神を崇めるお前は、やがて太陽の力によって滅ぼされるのだ。お前が太陽神であることの証に、そのマシンには下僕たる白いカラスの名を与えよう」

かくして、ダーク崩壊の折りにギル教授の脳髄を移植され、蘇るハカイダーであったが、復活したキカイダーゼロワン・イチローが、まさしく太陽の力を借りて、その野望を阻むこととなる。


※ ヤマハV−MAX「ギルティ」を駆るハカイダーは、ギル・ハカイダーとは別の個体のプロトタイプ    という解釈を、つくばーどではしております。