《神の鎧》

 太陽系から47光年離れた恒星系カペラの惑星ビアルにはかつて、高度な科学文明が繁栄し、その長い歴史は戦争を忘れ平和な社会を構築していたという。そのビアル星が突如、ガイゾックの侵攻を受け、ビアル星人は滅ぼされてしまった。
 だがこのとき一部のビアル星人は脱出に成功していた。彼等は彼等の時間で半世紀をかけて太陽系にたどり着き、ビアルの星とまったく変わらない環境の整った第三惑星に身を寄せた。それが、神ファミリーの先祖であり、神ファミリーの一族は、地球上でビアルの血脈を残しながら、江戸時代末期まで遡る古い家系を持つに至った。
 ビアル星人は、逃亡に用いた恒星間宇宙船を、現在の駿河湾、諏訪湖、東京湾に沈め、子孫に対しては母星の繁栄と滅亡、逃亡の歴史を古文書として残した。


 神、神江、神北の三家に分かれたビアルの子孫たちは、それぞれ申し合わせ、数世代に渡って調査を続けた結果、湖底や海底から失われた祖先の遺産を発見することに成功した。
 それは三隻の巨大な宇宙船と、各船に搭載されていた人型・飛行型変形艦載機、重戦車、偵察兼用重爆撃機であった。
 争いを放棄し、平和であったというビアルの歴史には似つかわしくなく、しかし高度文明であったビアルの科学技術ならば生産は容易と思われる、大型メカニック。ビアルの古文書には、どこか真実をねじ曲げた描写があるようだが、何世代にも渡って伝えられた、それは御伽話ともとらえられるような伝承なのだ。語り部や筆者の都合の良いように、どこかで書き換えられたことは想像しやすい。
 しかし、ビアル滅亡の事実と、この宇宙船や戦闘用メカニックの実在は、神ファミリーにとって災厄の予言を裏付けるものとなった。ガイゾックは、高度に進んだ科学文明を、正攻法から卑劣な手段を使ってまで滅亡させる存在なのだ。
 それはおそらく、この太陽系にもやってくるだろう。
 神ファミリーは、三家の最も若い世代である赤ん坊に、戦闘メカニック・ザンボットの操縦システムと操作方法を植え付け、逆に戦闘時における恐怖心を払拭させる催眠教育を施し、成長を待つ傍ら、三隻の宇宙船のドッキング構造を解析、サルベージして復活させる行動を開始した。
 何のために? ガイゾックの魔手から、一族の滅亡を辛くも救ってくれた亡命の星、地球を守るために。
 分離・合身式戦闘メカニック「ザンボット」の腕と胴体を構成する重戦車ザンブルは、は神江家の長男・宇宙太によって操縦される。東京湾から神江家が引き揚げた宇宙船ビアルII世の右舷艦首に格納されていた。
 ビアルU世は、三隻のビアル宇宙船の中でも、超大型車両の様な構造で、ほぼ同型の二つの車体が左右ドッキングすることで、ひとつの宇宙船を構成している。探検車としての性格を有していることから、ザンブルの管理担当であったようだ。
 ザンブルはそのフォルムの通りのタンク形状メカニックであり、斜度90度以上の壁でも登坂可能な、吸着機能を持つキャタピラや、オプションの2連クラッシャードリルによって地中潜行もできる。クラッシャードリルは射出武器にも応用でき、車体中央部にはビッグキャノンとビッグミサイルを装備し、車体上面の腕部パーツにはブルミサイル、アームパンチが備わる。
 機首部分には、正面からドッキングする形で、ザンボットの脚部を構成する偵察兼用重爆撃機・ザンベースの受け入れシステムが存在する。神北恵子が操縦するザンベースの機首側とドッキングすることで、ザンボットの90%の機体を構成し、双腕を展開しながら、直立状態で言う上方(ザンブル後部)を開き、ザンバードのドッキングを受け入れる。
 この大型メカニックのの頭部を構成するザンバードは、神勝平をパイロットに、犬の千代錦をナビゲーターとする並列複座の高速戦闘機だ。単独の作戦行動では、コクピットを爪先とする特殊なタイプのロボット形態・ザンボエースとなり、各種銃火器による戦闘能力を発揮する。ザンボエースは全高30mのロボットだが、機動性に優れる反面、ガイゾックが送り込むメカブーストと対抗するにはパワーが劣ることが弱点でもある。このため、ザンブル、ザンベースが巨大な鎧の役割を果たし、ザンボットコンビネーションの完成時には、60mもの巨大ロボット・ザンボット3へと強化される。