《このマシンが何かって? お父さんに聞いてごらん》


 私立探偵・早川健は、犯罪結社ダッカーの何者かに殺害された親友・飛鳥の仇討ちをすべく、その類い希なる武芸多彩の技量と、飛鳥が遺した強化服と月面探検車を駆使して犯人追跡のさすらいの旅を続けていた。スーツと探検車は早川自身が戦闘用に改造し、極悪犯罪人のあるところに颯爽と現れ、その者達の引き起こす犯罪トラブルをズバッと解決していく。
 人呼んでさすらいのヒーロー、怪傑ズバットとは、赤い夕日の憎い奴なのである。


 それにしても、ケレン味以外の何者でもないこのド派手な色と形。いやが上にも耳目を集めるのだが、それこそが早川のねらい。月面探検車がベースとはいっても、原子力エンジンを積んでいるなどという噂は、彼が流したはったりに違いない。
 その張ったりが通用するのは、このズバッカーに飛行能力があるからだろう。
 普通、クルマは空を飛ばない。しかしその盲点を突いて、目の前で「フライトスイッチ、オン」などとキメ台詞を放ち、空に舞い上がって宙返りまでしてしまえば、追いつめられた犯罪者は噂を真実だと思い込む。そこへ早川自身のなんでもござれの芸達者ぶりを見せつけられるのだから、とどめを刺される頃にはすっかりペースにはまってしまう。
 こうして警察機構に引き渡された犯罪者の自供に混じって伝わる口コミは、怪傑ズバットの恐ろしさを社会に広めていくのである。その情報はダッカー内部にも蔓延し、飛鳥を殺害した犯人を心理的に苦しめるのだ。
 ズバッカーは、その役目を十二分に果たしている。一見、無駄と思われる存在なのだが、5分間しか着装できない不完全なズバットスーツを身につけていながら、わざわざズバッカーを遠隔操作で呼びつけるか、自ら運転するかで現れ、犯罪者に飛行能力を見せつけているだけの存在にしか見えない。
 そこに生じる敵の隙を、早川は見逃さないのだ。