私の名はフォンブレイバー・セブン。歩く携帯電話だ。私はインターネット社会に生まれた移動体通信機器を超えるコミュニケーションツールの先駆けであり、近い将来のスタンダードモデルとなるべきプロトタイプとも言える。
 今の私は、アンダーアンカーと呼ばれる対サイバー犯罪抑止組織のエージェントをサポートする、有能なバディとして活動している。
 のだが・・・
 私のバディである網島ケイタは、エージェントの研修を終えたばかりのまだまだビギナーだ。彼がエージェントになった経緯も突発的な事故を伴っていたことから、これは無理もないことなのだが、いささかエージェントとしての自覚にかける部分は否めない。
 彼は気まぐれに、またあるいは意図的に、この私を置き忘れたり置き去りにしたりする。投げるのはまだしも、置き去りは許し難い。今も私はどこかに置き忘れられたまま、しかも圏外に放置されて身動きが取れずにいるのだ。
 困ったものである。
 しかし妙だ。緊急事態においては、私はバディの指示を与えられなくともアクティブモードに移行できるのだが、なぜか解らないが私の意識の一部だけが覚醒しただけで、私は身体を動かすことができない。まるでボディから意識を切り離されたような気分だ。
 ケイタ、早く戻ってくるのだ。私をあの美しい夕日の見える景色に連れて行って欲しい。目覚めたばかりのせいか、どうもルーチンの動作が鈍いらしい。寂しい・・・ これが寂しいという感情なのか・・・
 ケイタよ・・・