ゆくぞみちのくに 奥入瀬十和田八甲田 |
|||
青森県の位置関係は、座布団を並べた東北地方の略図解によって娘たちに説明した。これが実は、東北縦走ざっと700キロ越えを走るときに、精神的な支えになる。いま、座布団何枚目、という物言いは、気分を楽にするのだ。 そしてこんな教え方をしたものだから、みちのくという地方を「未知の国」だと思い込んでしまう霰も霙も、きっとそのうち、豊かなボキャブラリィを身につけていくに違いない。 みちのくには、見せ、聞かせたいものがたくさんあって、一度きりではとても連れて行ってあげられない。津軽や下北はもう少しあとのこととして、ひとまず十和田湖と奥入瀬渓流を巡り、八甲田の山すそに広がる森と平原を見せてやりたい。こうして娘たち最初の、座布団を何枚か隔てたかなたへの旅が始まる。 ざっくりとした行程は、つくばーどin青森に記したとおり。 原始の姿に程近い森と、その森を焼き尽くし、もう一度生み出した火山の噴火がせき止めた湖。そこから流れていく渓流の色彩と音は、どんな風に目に映り、耳に伝わっていることだろうか。朽ちて倒れ、黒々と横たわる古い樹木から、柔らかな緑色の新しい芽吹きがある。岩肌を打ちながら流れ続ける水は、言葉で知っているみずいろなどではないばかりか、濁っているわけでもないのに白い文様を描き続ける。 8月という季節にもかかわらず、トレーナーに袖を通さないと肌寒い、朝一番の渓流を渡る風の音は、冷たいというのに少しも怖くない。飽きることなく、変化を続ける奥入瀬の流れを追いかけて遊歩道を歩いていく霰と霙は、自分たちにとっての未知の国をつぶさに観察しようとしている。 その記憶がどの程度、心に残されるかは、約束されない希望の域。それでも、いつか自分の足でここへやってくるとき、きっと未知の国は陸奥の景色となって蘇っていくはず。それが何年先のことであっても、しばし忘れてしまってもいい宝箱になってほしい。 |
|||