雪の南房総ツーリング
それでも外房は暖かかったよ


 センター試験が始まった週末、ジンクス通りに八丈島沖を低気圧が北上し、大陸から張り出した寒気に接触した。そうすると、関東の太平洋側にも雪が降る。都心でも積雪10cmの混乱がが生じている頃、BLUEらすかるは内房を東へと走っていた。
 もちろん、その日がジンクスを背負うセンター試験の日であることは、すっかり忘れていて、南房総巡りに雪が降るのは初めてだなあと、のんきなツーリングが行われていたのである。

 内房は、富津館山道路の開通で、要所要所の漁港をスルーしてしまうようになった。それではつまらないので127号線を走りつなぎ、漁港の食堂で寿司やら天重やら刺身定食を平らげ、枇杷のソフトクリームやら枇杷ジュースやら枇杷カレーやらを物色する。要するに食い倒れツーリングではないか。
 だって女性陣が4人だもの。みるみるうちに、BLUEらすかるのラゲッジスペースは買い物袋で埋まっていく。この調子で明日の外房でも買い出しをするのか?
 今までと少し異なるのは、見慣れたメータークラスタの中の燃料系が、ゆっくりと動いていること。5名乗車、東関東道、館山道とも四駆。しかし燃料消費は少ない。
 TD61Wは確かに11系とは違う。先代のとるねーどらすかるでは、往路で一度給油をしなければ、房総半島を一巡りするのは辛い行程だった。それに加えてトルクの太さが雪道でも安定した走行能力を発揮する。
 ただ、雪だ雪だと言えていたのは保田の漁港まで。127号線のトンネルを抜けるごとにみぞれが雨に変わり、館山にたどり着く頃には曇り空になっていた。
 

 沖合に潜水艦を発見。
 霰も霙も、鋼鉄の鯨を目の当たりにするのは初めてのことで、興味津々にデジタルカメラのズームを使って偵察する。
 「ブリッジに人が2人いる」
 「旗も立ててる!」
 東京湾、というより館山湾内には、浮上中の潜水艦に限らず、海自の艦艇や海保の巡視船が沢山見られる。
 などと口走ってしまったら
 「高いところからサーチしよう!」
 「お姉ちゃん! あそこの崖にお寺みたいなのがあるよ! あそこに登ろう!」
 ばっ、罰当たりどもっ(登るのかよ)
 かなり不純な動機で、真言宗智山派の大福寺を拝観。船形山の絶壁に、磨崖仏の十一面観音がある。
 縁起によれば西暦717年、行基の掘ったモノだという。

 「あれ? ちょっと待って下さい。ギョウキっていうのは、奈良の大仏を建立する時、世論の合意と経済的な基盤を固めた人でしたよね。それより前にこの磨崖仏が作られたということは、大福寺は以前は真言宗ではなかったということか?」

 奈良・東大寺の大仏開眼は752年。弘法大師・空海が生まれるのは、それから22年後だ。空海によって真言宗が開かれるまでには、さらに32年を必要とする。
 行基はそもそも、法相宗の者であるらしい。この崖の観音も、もともとは法相の寺だったのかもしれない。平安時代に入って、動乱や密教・禅宗の流行で奈良仏教が衰退し、宗旨変えしたということか? いやそんなことより、膝が笑っている・・・

 子供たちは貝殻細工と押し花細工を作りたいとリクエスト。崖の観音から館山ファミリーパークに案内し、単身BLUEらすかるを国道から脇道に。ワインディングを駆け上がっていくと、その小さな喫茶店がある。もう20年もお店を続けているという。ここはこれ以上の紹介をしない。Sレイドの課題地にふさわしいから。
 それ以上に、ひっそりとお茶を飲みに行くべきすてきなところだ。