タイロッド 脱臼す
 雨の林道では普段より限界値が下がるため、低難度のセクションも油断がならない。赤土のヒルクライム、適度に川筋となったクレバスとガレ道。それらの走りつなぎで、マッドテレーンタイヤ(BFグッドリッチ)とオールテレーンタイヤ(ブリジストン)の性能の違いを見てみようと、出かけたまでは良かった。
 藪道やガレ道は、両者たいした差を表さない。むしろオールテレーンタイヤの方が、幾ばくかコンパウンドが柔らかい分、いなし方が楽かと思われる。しかし柔らかくなった赤土となると、文字通りマッドテレーンの独壇場。ヒルクライムに関しては泥詰まりの早いオールテレーンは、あと一歩のところでタイヤが空転してしまう。
 だが4Hから4Lでの再トライをすることができなかった。方向を変えるために据え切りターンをしている最中、左フロント側のタイロッドが、タイロッドエンド部分からすっぽ抜けてしまったのである。
 ロッド、エンド双方のネジ山は錆と酸化で劣化しており、これまでの走行の中で擦りつぶされていたと見られる。アジャストナットが緩んだのではなく、ネジ止め効果が無くなる瞬間を迎えたようだ。フロントは自重相殺を差し引いて40mm上がっているため、タイロッドにかかる負荷も大きい。
 ジャッキアップできないので応急処置が不可能。這々の体で撤退・脱出を図る。トラブル地点から県道まで1200m。幸い左前輪は内側を向いており、ゆるりと後退させることで中立状態に。200m先の右コーナーまでは直線。まずそこまでのろのろと発進させる。右コーナーの出口へさしかかるところで、再び後退。左前輪が外を向かないように姿勢を整え、藪に頭をすりつけながら左コーナーを大回り・・・
 なんとか県道の広い路肩まで自力でたどり着き、主治医にレッカー搬送依頼の連絡ができた。ひとまず全治4日間の脱臼診断。4日とは部品発注から修理完了まで。例によって地元に部品在庫はなかった。
 浜松からタイロッド、同エンド側の部品が届き、交換完了。防錆処置を施して組んでもらい、アライメントの取り直しを行った。
 タイロッドもタイロッドエンドも、がたつきが出る、折れるという意味では消耗品なのだが、今回は抜けただけという軽傷といえば軽傷(ジャッキアップできていれば応急処置で自走撤退も可能)。しかし本来なら、抜けた状態のままで自走はさせない方が賢明だし、たいていの場合は折ってしまうだろう。抜けた、というのは運が悪かったのやら良かったのやら?な事象だった。
 引きずってきたタイヤの損耗は、アーム側に擦れたあとが確認できるが、タイヤ側は目視においては無事のようである。ぼちぼちと試運転を開始する。