ТDA2012年シーズンが開幕した。川添哲郎選手は、遂に乗機をパジェロミニからエスクードに乗り換えた。前年度ファイナルで乗車した4AТのTA51Wとは別の、5MТ仕様だ。
 この個体は、ESCLEVやつくばーどの顔なじみならば誰もが目にしたことのある、SIDEKICKさんからの提供車両だ。
 かつて、現役時代の島雄司監督が、狼駄さんからコンバーチブルのエスクードを手に入れたときと同じことが、再び巡ってきた。
 しかし肝心のミッションはオーバーホールの時間がなく、使用に耐えられるかどうかが不安のままだ。
 一方、昨年度チャンピオンの後藤誠司選手は、4Hレンジを活かすために前後のデフを1600ccのエスクードのものに変更するなど、新たなバージョンに仕上げてきた。
 彼らが挑むのは3500ccのパジェロエボリューションやパジェロJトップ、パジェロジュニア、パジェロディーゼル、デリカスペースギア、そしてジムニーと軽トラックという布陣。しかしこれらを突破するエスクードの実力は、すでに後藤選手が示している。
 この開幕戦は、それらに対して油断をしない前提で、同じ2000ccのエスクード同士の戦いが軸となるはずだ。
 トーナメント方式のなか、エスクード対決はベスト8争いでぶつかることになった。4Hを駆使する後藤選手に対して、川添選手は4Lレンジで時速120キロへ引っ張り、コーナーへ突入する。
 旋回速度を安定させた後藤選手に対して、立ち上りを狙った川添選手だったが、軍配は後藤選手に上がる。
 川添選手は敗者復活戦に臨み、タイヤのピード落ちであわや失格の危機に陥るが、対戦相手の好意で仕切りなおされる。
 ベスト8のシーン、後藤選手のエスクードはコーナーの踏ん張りが効いていた。その違いは、チューブインタイヤを使った後藤選手の作戦であるという。
 だが、トーナメントのカードを自在に進めていく駆け引きのセンスが、川添選手の武器。ベスト8は、実はパワーセーブして手の内を伏せ、逆に後藤選手の走りを後ろから観察し、HとLのレンジを見極めていたのだ。
 ピード落ちで足元をすくわれかけたが、ここから彼の逆襲が始まり、ベスト4争いで2度目のエスクード対決。川添選手はもうひとつの牙を見せる。
 このレースに限って、スタート時に動作する光電管機器が故障しており、全般にわたってフラッグスタートがとられていたのだが、川添選手はそのタイミングを計るのが誰よりも優れている。つまりフライングぎりぎりのタイミングでダッシュできる、随一の腕前なのだ。
 彼はずっと、どこまでやったら失格になるかを計っていたという。機械任せでスタートするよりも、コンマ何秒をもぎ取る作戦に出ていた決戦は、後藤選手のタイムを凌いだ。後藤選手は奇しくも3位決定戦に甘んじる。
 決勝に立ちふさがったのは、パジェロJトップを操る廣瀬選手。今季は兄弟でエントリーしており、エスクード封じを展開してくる。この優勝争いも、川添選手にとっては、僚友が通った道だ。
 「ごっちゃんが勝ち取った実績を、自分が譲るわけにはいかない」
 トップスピードでは不利になるほどストレートの長いコース設定を、三菱対スズキが駆け抜ける。終始、低速のギアに入らないガタガタのミッションを、ここぞとばかりに叩き込む。車は最後まで音を上げなかった。
 息をのむ頂上決戦は、川添選手が制する。無冠の帝王に、遂に勝利の女神が笑みを投げかけた。歓喜とともに、波乱のシーズンがここに始まった。

 
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