2005年からなんとなく続けている(東北へ出かけることはそれ以前にもあったけれど)みちのく見聞で、津軽と下北の道は大雑把ながらも馴染みが出てきた。ところが気づいてみると、東海岸は、まだ「みちのくに」だった。
 ふと思い立たせたのは、津軽のロードスター乗り、「白髪爺。さん」という人の、Sレイドの課題の場所。寺山修司でも自由の女神でもなく、ミス・ビードルの赤い機体だった。なぜ青森県にそんな飛行機との縁があるのかは、文献をひもとけばすぐにわかるのだが、それがSレイドに取り扱われていることには、きっと悪戯ごころがあるはずだ。
 だから今年も、みちのくに出かける。


 1931年、クライド・パングボーンとヒュー・ハーンドンが挑んだ太平洋無着陸横断飛行は、三沢市の淋代海岸から離陸していた。ワシントン州ウェナッチには、胴体着陸でたどり着いたという。それは不時着と同じなのではないか? とも思うが、彼らの飛行は世界初の成功と讃えられているから、歴史的なエピソードとして有名だ。
 三沢からウェナッチへの横断は約41時間10分を要し、約4900マイルを飛行したという。キロメートル換算では7847キロとなる。車で考えたら、ちょっとしたレイド型競技の走行距離。やっぱり飛行機は速度が出る。当時の機体で、2日で太平洋を横断できたのだから。エスクードで現実的な走行期間を照合しても、2ヶ月は必要だろう。そして淋代海岸からは5回の横断離陸があったが、成功例は、このミス・ビードルのただ一度だけということも、印象深い。
 実はミス・ビードルは、この5回のトライアルの中で、4番目に離陸した機体。私の、人呼んで「みちのく荒行エクスプレス」に限定して言えば、今回が4度目を数え、毎回約2000キロを走っていることから、ことし、三沢・ウェナッチの距離を走りきることとなる。
 白髪爺。さんには、残念ながらまだお目にかかったことはないが、ユーノスロードスターの人馬一体というコンセプトや機能性をこよなく愛し、その車体を造り上げた「志」を受けて走り続けることが、「乗り手の志」と唱えていらっしゃる。そういった逸話が、ロードスター乗りに知人がいなくとも、エスクード仲間から伝わってくるところが面白い。
 笑われること請け合いだが、次回のみちのく行きは通算一万キロを記録する。それは私にとって記念。その際には、白髪爺。さんを訪ねてみたいと思う。 
 
 淋代海岸が、なぜ太平洋横断の離陸地点に選ばれたのか。それはごく単純な理由で、太平洋に面しているアジア側で、最も東寄りに位置する「滑走可能な地形」からだ(南鳥島と納沙布岬は別の話ですよ)。偏西風の存在もあり、アメリカからこちらに横断してくることは効率的ではない。三沢から飛び立つことが、飛行家たちの必然であった。
 この最端という響きには、めっぽう弱いのが私。三沢が選ばれた最も東寄り、という言葉には「本州には“最も”を上回る“最東端”が存在する」ことが示唆されている。
 本州最東端の地は、岩手県宮古市のトドヶ崎。北緯39°32′東経142°04というポイントに位置する。
 うわ、なんで39度なんだ。
「みちのく行きなら、北緯40度線を踏みしめてこなくちゃね」と因果を含められている。これまで大潟村と八幡平市のモニュメントは踏破してきたが、普代村の黒崎砲台跡にある地球儀にはまだ到達していない。
 現在の岩手県釜石市から青森県野辺地にかけての海岸線を藩領に抱えていた南部藩は、外国船警戒のための遠見船番所を有していた。黒崎もその一つで、戊辰戦争時代には砲台にされている。淋代海岸からトドヶ崎へ移動するとなれば、やはり立ち寄っていかねばなるまい。
 しかし甘かった。黒崎はまだしも、トドヶ崎は灯台の看板から徒歩で片道約4キロを歩かねばならないのだ。2000キロのうちのたった4キロに躊躇してしまうところが我ながら・・・ と言いながらも、往復8キロ弱を歩いた(往復せねばならないことを忘れていた)だけのことはあり、最東端という響きと、絶景の醍醐味を堪能した。
 私の場合、本州最4端は、残すところあと一つ、下関だけとなっている(行くのかよ)

 なぜか滝沢村まで戻ってくるのだが、それはSレイドのスイカにトライすることともう一つ、岩洞用水路の一部として稼働している円筒分水を見学するためだ。円筒分水とは、農業用水などを分配する利水施設で、円筒型の設備の内円筒に水を湧き出させ、外側へ越流するときに分配される。一定の割合で、正確に分割される機能が、開拓地や農地での水争いに解決をもたらす土木構造物として、かつて全国的に用いられた施設。今は機場を設置してポンプを使用するようになっているが、これらはサイフォンの原理で水をわき出させるところが面白く、見聞紀行のひとつのテーマにしている。
 今回は岩手山麓土地改良区連合の円筒分水工(下の3列の上段)のほか、奥州市胆沢平野土地改良区の徳水園(中段)と蛸の手分水工(下段 これはサイフォン式ではない)と、もう一カ所を駆け足で見て回った。徳水園の円筒分水は日本最大級といわれている。
 残る一カ所は、Sレイドのカーテンコールに採用されたので、詳細を伏せておく。