水戸市から須賀川市を経て会津若松に至る国道118号線のうち、矢祭から石川あたりまでを石川街道と呼ぶ。その途上に位置する棚倉町と浅川町の境界付近で、「珈琲館ポピー」は47年目の営業を続けている。
 オーナーの松本英一さんご夫妻は、浅炒りで焙煎したとても美味いコーヒーを出してくれる。このコーヒーのためなら約130キロの道のりはどうということはない。
 その松本さんが唐突に、何年も休止していたブログを更新した。
 松本さんは棚倉からさらに130キロ離れた川俣町の花塚山に通い、富士山遠望の北限撮影に挑んできた人だが、2016年の秋に川俣町に所在する写真クラブが先んじて撮影に成功している。
 ところが松本さんのブログにはまさしく富士山が写り込んだ写真が、2012年冬の日付で撮影されていたのだ。
 なぜ今になってこんなものが出てきたのか?
 それを聞きたくて石川街道へ走った。


 ここまでの経緯は、ブログ「TrendBlue」に記したことがあるのでリンクを貼る。
 「そこから富士は見えるのか」
 「石川街道漂流記 前編」
 「石川街道漂流記 後編」
 「花塚山富士遠望」
 前回、ポピーを訪ねた年の秋、富士山遠望撮影がなされた。このとき松本さんは2012年の花塚山行きについては話さなかったのだが、

 「川俣町の面々が撮影したという遠望と比べてみたら、私の写真にも同じものが写っていました。それまでは曖昧なものは世に出せないなと思っていたのですが、解析の結果は間違いなしでした。でも、彼らの撮影成功がニュースで流れた後のこととなっては、私の写真は無かったことにしてくれと学者に言われましてね」

 潔いにもほどがあると思えば、松本さんはサバサバとしてこう続けた。

 「富士北限遠望は自分自身が納得して達成したから、もういいのです。ずいぶん時間が経ちましたが、私なりの記録を残しておいてもいいだろうと、ブログに上げる決心ができました。今は新しい課題に取り組んでいますよ。それはここ(棚倉町の位置する北緯37度)から、オーロラを撮影することです」

 それは低緯度オーロラ観測と呼ばれるジャンルだとか。地表の明かりなどのノイズをフィルターでオミットし、地平線付近を観測することで、樺太くらいの位置のオーロラの赤い部分が福島からでも観測できるという。富士遠望と異なり、学者の匙加減で精査されず、天文学者や気象庁の観測で立証される。
 しかし松本さんはまだこれに成功していない。
 太陽黒点の活性化によって、地球に届く電磁波の強弱が極地のオーロラを低緯度まで拡大するという。概ね10から12年周期でそれは起こり、実は現在のピークがことし5月9日未明だった。

 「千載一遇のチャンスをね、雨降りで不意にされちゃったよ」

 その雨の晩、松本さんのブログ更新を発見していた。
 ここへは訪ねるべくして訪ねたということだったらしい。

 

 今回、会津若松までは時間の都合で届かず、須賀川市を折り返し点とした。
 松明通りの怪獣たちを見物に立ち寄ったのだが、その異変は2010年に始まっていた
 すべてを確かめてはいないが、かなりの数の影絵がBOXの交換か再塗装によって消滅していた。ウルトラ兄弟や怪獣の立像がこれに替わったということだと思うが、なんとも寂しい風景になった。
 須賀川では有名な大束屋のコーヒーと日替わりランチをと足を向けたら、定休日だ。松明通りに戻ったら浪漫亭という名の店が目についた。記憶にないのだが周囲の建物が解体され、景色に埋もれていた店舗が目立ってきたようだ。
 記憶していないという割には、今年が開店10年目だという。自分の記憶がいかにあてにならないかを痛感した。


 須賀川インターから東北道に乗り、栃木県へ移動する。
 那須高原サービスエリアで一般道に降りる。定番の摩庭ファーム訪問コースだ。
 と言いながら、前回訪ねたのがコロナ禍の始まった頃と、割と間をおいてしまった。

 「開店休業が続いてあまりに暇だったので、石窯を作っちゃったよ」

 摩庭さんが指を刺したテラスの奥に立派な窯ができていた。まだプライベートの利用で試験中だというが、いずれチーズケーキ工房のメニューにピザが加わる・・・かもしれない。

 「コメリに行ったら、耐火レンガがいろいろあって安かったね」


 チーズケーキにもいつの間にか新作が。ベイクドチーズケーキとレアチーズケーキの二層構造「ダブル」だそうだ。なんとコロンブスの卵な発想。1ピースで二度おいしい。

 那須高原をあとに帰路につく。ここからは小刻みな区間距離の計算を始める。
 なぜというに、今回の漂流紀行は行程370キロを組んでいる。
 上手に帰宅すれば、帰り着いたところでBLUEらすかるの積算走行距離が880000キロに達するからだ。
 結果は、400メートル手前でそうなった