館山市の洲崎灯台を過ぎたら外房だと思い込んでいた。
 そこは南房総だという。
 50年代に国が国定公園として南房総の名を付けたことが始まりらしい(諸説ありますよ)が、21世紀に入って誕生した南房総市が内房から外房の、館山市以外の広範囲を占めるために、房総半島の突端あたりはほぼすべて「南房」なのだ(異論ありますよ)


 館山駅近くの老舗の幸田旅館に宿泊し、館山港近くの民宿で名物プディングを買い求め、渚の駅たてやまで「さかなクンの映像解説」と「戦翼のシグルドリーヴァ」の聖地認定証を見ながら、海岸沿いの「内房漂流時代に使っていたデニーズ」が別の店になっていたことを知り、その近くの見知らぬカフェで一息入れる。
 このあたりはどっぷり館山市。しかしどっちへ進んでも南房総市が待ち受けている。自分の中では北へ行けば内房、南なら外房の感覚がまだ染みついているのでどうにも落ち着かない。
 安房国とか上総国とかどうすんだよ、と言いたくなりながら、そういう名称は地名意外にまだ駅や学校などには残っている(でも安房鴨川駅は外房)ので留飲を下げる。
 そのひとつ、かつては女学校だった木造校舎を訪ねると、築98年になるという校舎は、今は廃校。敷地を新しい役所建物に侵食されながらも、きれいに保存されていて、モダンな意匠と凝りに凝った内装装飾に見とれてしまう。
 ここから野島崎灯台を目指す。
 気分は外房への脱出。でも白浜あたりは南房総市。

 

 野島崎は房総半島というより、関東平野の最南端だ。国道410号沿いの喫茶店で再び休憩。ここより海側に何軒かの食堂があるけれど、喫茶店という括りならば、この店は関東最南端の喫茶店なのである。
 そういうつまらなーいことをひそかな楽しみとするのが好きなのだ。内房でも南房でも、漂流という言葉にはそんな意味合いが込められている。
 朝方の館山は曇天で伊豆より先の景色は臨めなかったが、白浜に出てからは陽射しと青空に恵まれる。2日後に大寒が巡ってくる季節とは思えないぽかぽか陽気だ。
 野島崎には海神として祀られる大蛸が伝説として語り継がれている。漁師や陸の住民に幸を呼び護っているらしい。そのご利益かもしれない。ただ、現代にあってこの海神を描いた人のセンスはひどい。蛸どころかアマゾンの半魚人。


 国道410号を千倉経由で内陸に移動する。そのまま走れば久留里を経由して圏央道に山越えできる。途中、わずかに国道128号を進んでいるとき、妙なオブジェの置かれた和菓子店を見つけ、つられて入店したら、大正初期から四代続くという。妙なオブジェは「サザエ最中」だった。
 つい興味が出て買い求める。クジラの形をした饅頭にも目が行ってしまい、これも購入。そろそろ日が傾き始めるので、前日鴨川からの移動途中に立ち寄った和田浦の鯨資料館前での撮り直しも断念し、帰路に就く。
 まあここからが長い。