「ちょっと横須賀まで行きたいんですけど」
 という霙の≪試運転に行きたいんですよ≫な要請によって、道案内で助手席に乗り込んだはいいのだが、横須賀の何処へ行くのか聞いたら≪特にあてはないです。お茶してご飯食べたいなっ≫な、どこかで聞いたようなアバウトなリクエスト。
 走る距離、道のりの簡単さから、娘たちはちょっとお出かけの場所として、横須賀や三浦半島をイメージするらしい。それは子供のころから「ヨコハマ買い出し小隊」やら「つくばーどRin津久井浜」などで、何度も訪れているからだろう。
 最近の押しとなっているBlueMoonは、パンケーキとスペアリブが名物の喫茶レストランだ。我が家では「青い月のクリームソーダ」が特に好まれている。
 しかし、BlueMoonは、あの≪和邇家≫の行きつけの店でもある。黙って出かけて行ったら、どこでどんな小言大言をくらうか想像に難くない・・・って、前に書いたままだこの一文。

 
 「なになに、霙ちゃんが遂にマイカー所有した! そういうことならおぢさん、見に行っちゃうよ」

 赤いコンバーチブルのエスクードを降りた後、黒のGSX‐S1000に乗り始めたはまたにさんと、和邇お嬢妹・マナさんと和邇さんが、BlueMoonで待ってくれていた。
 「中学生のときに初めて見たのが日産フィガロとの縁です。ドアの開け閉めって、ほんとにブリキの板を叩いたような音がする」
 「一応外板はブリキじゃないからな」
 初遭遇の頃、フィガロは既に20年前の車だった。足かけ10年にして、ある種の夢を実現させた霙だが、いきなり30年前の車になってしまった個体に乗り始めるというのは、まあチャレンジャーだ。
 「天気もいいし、このあと鎌倉まで海岸線をツーリングして、横横で流れ解散しましょうか」

 和邇さんが穴場の景観スポットを案内しながら先導してくれる。フィガロは2日前に、福岡市のウエストウインから届いたばかりだ。人車ともに事実上のシェークダウン。


 「行きがかり上30年前のクルマに乗り始めたけれど、同じ年式のエスクードに乗ってきて実感するのは、エスクードって安心感があるなあってことですね」
 霙はハンドルを握りながら、なかなかしおらしいことを言う。このフィガロも、四駆のショップやダートレースの強豪として名をはせているウエストウインの島雄司社長が、個体探しから整備まで、異例で手を入れた個体だ。安心感は違った意味で宿っているはず(ETC取り付け忘れられてたけど)。
 実際に走らせてみれば、往年の性能はそのまま維持されており、リッター13キロを上回る燃費が出た。これはカタログ表記を再現できている。
 
 

 湾岸線から常磐道へ戻り、日没前に筑波研究学園都市に辿り着く。
 霙の叔母である吹雪と、その亭主隕鉄が、それぞれの愛車で待ち受ける。吹雪のマーチ、隕鉄のマイクラとは、初代マーチをベースとするフィガロは血縁関係でもある。
 隕鉄は近所の商店で、ガシャで売り出されているフィガロのミニカートイをコンプリートして進呈してくれた。
 さあこれで本当に2021年の行事は完了だ。