5月26日に日付が変わる頃、ようやく土砂降りだった雨が上がった。
 24年も前のアルバムを、16年前の車に装填する。いまどき? と言われようと、ぷらすBLUEのセンターコンソールにはFM/AMラジオとカセットデッキしか無いのである。けれどもこの骨董品のような組み合わせが、妙にマッチする。
 もちろん、流れ出す曲は、古くささなど感じさせない。ベタだと思われようとも、村松健の『+BLUE』を聴きながら、湾岸の隅っこから遠州灘を目指して走り出す。300kmの道のりには、2つのCPを設定した。桜エビと、ハクセキレイ。前者はSレイドの課題の場所であり、後者はことしの春ののどかな話題となった、ゆりかごの公用車・TD51Wに巣作りをした鳥たちだ。
 富士インターで東名高速を離れ、1号線に乗り換える。Sレイドの課題の場所なので詳しくは記せないけれど、それでしばらく走れば、巨大な桜エビを捕まえられる。第1CP到着、午前3時30分。ライトアップなどされていない目標を、どうやって撮影するかをしばし考え、考える以前にこの時間ではかき揚げは食えないのだと、少々悔しい思いをする。
 1号線を清水市で150号線に乗り換え、大井川を越えて牧ノ原市をめざす。ハクセキレイが雛をかえしたのが、つい昨日のことだ。約1時間後に現地にたどり着くと、親鳥が餌を運んで巣に入っていくところを見ることが出来た。雛? 覗き込むのはちょっと気が引けるので、牧ノ原市のHPのニュース画像で「見たことに」した。
 第2CPでバードウォッチングを済ませ、一路浜松へ移動する。天竜川オフラインミーティングには、参加の旨は伝えていない。しかし、開催をこの日にしてほしいと要望を出している以上、欠席はできない。
 それなら素直に「行きます」と言えばいいのに、言わないでほったらかしておくところは悪い癖。だから後々、昼飯のカレーライスを食えないという罰が当たる。
 馴染みの仲間、初めてお目にかかる仲間との挨拶もそこそこに、「いったい何をしに来たんだ」状態の慌ただしさで、天竜川を中座させてもらう。ここから折り返すわけではなく、200km先の第3CPに立ち寄る用向きを抱いていたからだ。
 それでも朝飯抜きで臨んだ「給食のカレー」を食えずに立ち去れるものかと、カレーだけでもシチューで食えるとばかりに、紙コップで2杯を平らげる。やや中辛のカレーは、さらに腕を上げていた。
 清水まで戻って、東名から52号線で甲州へ向かう。事前のコース設定で予測していた通り、身延山近辺で、ぷらすBLUEの積算走行距離が88888kmを刻むことに。境内近くまでは間に合わないと、参道を途中で引き返し、山門前まで戻ったところが記録ポイントとなった。
 寄り道によって、タイムテーブルには30分の遅れが生じている。いや、まだ日は高い。幌を開けた屋根の上には青空が広がっている。
 山梨県大泉村は、平成の大合併で北杜市へと名前を変えていたが、八ヶ岳の南麓であることに変わりはなく、土地勘でIrishPub BULL & BEARを訪ねていく。
 ここに96年式の白いTD01Wノマドがあることを、偶然の重なりで知った。お店を営むご夫婦が、エスクードを選んだ理由はコンパクトで丈夫だというアドバイスからだったそうだが、奥様はずっと以前、ノマドのCMに登場していた遊牧民の家族というシーンを、それがエスクードだとまでは気づかず、しかし鮮烈に記憶していて、とても気に入っていたという。このエピソードは、別コンテンツの遊牧民の記憶にまとめさせていただいた。
 「そのCMでデビューした車こそが、お二人の使っているノマドでもあるのです」
 突然押しかけていった変な客であるにも関わらず、ご夫婦は快く出迎えてくださり、在りし日の遊牧民たちと、庭先のノマドとの共通項に笑顔を増量してくれた。
 15:30にカウンターに降ろした腰に根が生え、気が付けば2時間近く、メインであるはずのギネスも飲まず(いや車だからもともと飲めない)、コンパナとソーダで対話を続けていた。お店が混雑する前に席を立ち、八ヶ岳を半周して141号線から上信越道へ帰路をとる。50号線で北関東を横断し、惜しくも埼玉県だけを通過できずに関八州を一巡りしてきた。
 22時過ぎの帰宅。1000kmにはちょっと満たないワンダリング。あと半日くらいほしいところだが、充実の土曜日を過ごした。