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《闘将のその後》 |
「トランザーが自走できるところまで修復された」
そんな連絡を、唐突に、しかし遂に受け取った。
全長約40mにも及ぶ地下都市建設用超大型トレーラートラック。それがトランザーだ。
かつて地球は、90光年離れた外宇宙文明・バームの襲来を受けたことがある。
小惑星の衝突で母星を失ったバーム星人は、小バームという巨大宇宙都市を建造して宇宙を放浪していた。太陽系にたどり着いた彼等は小バームを木星軌道に定位させ、10億のバーム星人を残して平和的な地球への移住を果たすべく、地球人と移民交渉を行ったが、内部分裂によって地球との交戦状態を引き起こしてしまったのだ。
このとき、地球防衛の最終防衛戦となって戦ったのが、このトランザーを改造した「ダイモス」であった。
格闘用人間型ロボットへ変形するトランザー/ダイモスは数々の戦闘の末、指導者の最後と共に木星引力圏に落ち込んでいく小バームの推進システムを回復させるため、要塞化した小バームの中枢通路の強行突破に用いられた。最終戦ではヒト型ではなく、原型のトレーラー形態で突入したが、制御室手前で前輪を破壊され走行不能となり、自沈した。
その後、和平締結した地球とバームは、トランザー/ダイモスのパイロットであった竜崎一矢をリーダーとして、火星開拓の移民団となって地球を離れている。
トランザーは、その際に火星に持っていったものだとばかり思っていた。
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「ええ、確かに彼等はトランザーの2号車と3号車を完成させて、火星のテラフォーミングに活用するために持っていったはずですよ。2号車にダイモスβ、3号車にはフォボスαと名付けられています」
ある港のコンビナートの一角をたずね、そこで専任技術者の監督官と会った。
その監督官が、そう言った。
火星開拓移民団が地球を出発するまでの間に修復することは不可能なほど、トランザーは全損状態だったのだという。
パイロットの竜崎は最後まで苦悩したそうだが、即戦力としての汎用重機というトランザー/ダイモスの必要性と、10億のバーム星人の移民先を一年でも早く提供するという新しい使命のもと、命を預けた愛機に別れを告げることとなったという。
私は、オリジナル・トランザーを、誰が、何の経緯で回収し、何を目的に修復を進めているかについては、その内容の一切を秘匿することを条件に、追跡取材の機会を得ていた。
過去の経緯には、私はさほどの興味を抱かなかった。
メカニックとしての超大型トレーラートラック。たとえ低速度であろうと、それが自走する姿を見聞できれば、それで良いのだ。人間型への変形? そんな無粋なギミックなど、どうでもいい。
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「ダイモスへの変形は依然として不能です。各所のアクチュエータが焼き切れて固着しておりまして、関節駆動系とジョイントは、神経パルス伝達系も併せて全て交換しなくてはなりません。しかしそれをやるなら」
「2号車を作った方が早いと」
「そういうことです。参考までに、フォボスαには変形機能はありません。ダイモライトエネルギーとアイザロン粒子の増幅中継車として改造されています」
鉄骨造のありふれた格納用倉庫の一棟に、なるほどくたびれた趣のオリジナル・トランザーは管理されていた。なぜ格納されているのが、この港の埠頭倉庫なのかを聞いてみたところ、理由はたいしたことではなかった。
トランザークラスの超大型車輌は、首都の一部には救急戦隊や特捜戦隊の搬送システムや道路インフラが整っているが、そのエリアは限られている上、最も理想的な点検・改修ハンガーとなるはずだった救急戦隊のベイエリア55基地が東京湾に水没したままだ。特捜戦隊の有能なメカニック・白鳥スワン技術主任に至っては、
「あたしデカマシンの修理で忙しいのよ!」
そこで、船積みで搬送するしか、方法がなかった。高速道路経由での陸送は、コンビナートまでの道路幅員は確保できたものの、跨線橋や送電線の位置が低く、仮に修復前のトランザーが自走できたとしても、陸路運搬は不可能なのだ。
かくも不憫な境遇のトランザーだったが、あるプロジェクトの立案と発動によって、この地に海上輸送され、少しずつ修復作業が進められていた。フットカッターなどの一部の外装装備は、再現されていなかったが、全損と言われていた車体は、なんとか形を戻すことができている。
「動かしましょうか?」
監督官がそう言いながら、私を操縦補佐席に案内する。
操縦席は、トランザー専用のものに換装され、コンソールも一新されたという。
「各部チェック。オールグリーン。トランザー、GO」
足下から低い音と振動が伝わってきた。音声入力によるイグニッションによって、トランザーは永い眠りから今、覚醒した。
「側頭部左右に、やたらとでかい排気ノズルが4基ずつありますけど、あれってエンジンの一部なんですか?」
「調べてみましたが、補助動力系統の末端らしいです。ダイモライト反応路はダイモスの腹部にありますが、これはトランザーの駆動系とは別物で、トランザー自体は、足下の12輪駆動ユニット内に超伝導モーターを内蔵した、独立連動システムをとっています。以前は超伝導モーターではなく、ダイモライト補助ユニットでしたけど」
トランザーはゆっくりと、格納庫からその巨体をゆするようにはい出していく。
救急戦隊のレッドラダーの操縦席からの眺めに近い。が、高さについてはトランザーの方が全高があるかもしれない。このコンビナートの幹線道路も、所々にあるパイプラインのブリッジなどで、平均した高さ制限は8m程度に抑えられている。格納庫の外に出られても、走らせることは不可能のようだ。
「では、これより試験運行に移ります。トランザー、水上走行モード」
水上走行! そんなことができるのか?
「海上を行かないと、近くの埠頭に移せないんですよ。もともと水陸両用なので、埠頭の方を一カ所、スロープ化してもらって、そこから再度上陸します」
ああ、運良く試運転に同乗することができたが、この場面は外から眺めた方が感動的だったかもしれない。
水路を悠々と“泳いだ”トランザーは、車体を震わせながら桟橋のスロープを駆け上る。
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「トランザーは、変形機能を有していても、パーツのドッキングによる人型への形態変更を行わなかったところが、気密性を高められる要因かもしれません。ここまでガタが来ていても、浸水警報は鳴りませんでしたよ」
「単機変形というのは、やはり接近戦主体の格闘系ロボットだったからでしょうかね?」
「車体の各部にサブコンピュータが備えられて、パイロットの肉体的動作を手足それぞれのサブコンピュータで追尾制御していたようです。基本制御は、筋電流の増幅という信号伝達です」
「うーん。しかもダイモスになると空も飛べたというんでしょ? トレーラートラックの存在意義がまるでないですね」
「そうでもないですよ。最近は航空機が二足歩行タイプに変形する時代ですが、トレーラートラックは理想のペイロードを有しています。ロボット側のボディを収納できるアーカイブコンテナ。これこそが、トランザーの時代の、優れた基本性能なんですよ」
埠頭のコンクリートの上に降り立った監督官は、ノートPCからトランザーのホストコンピュータに指令を送る。
「まだリモコン装置ができてなくて。今の信号で、主要開口部がオープンします。無骨なトランザーのボディには意外なほどのイケメンですよ、ダイモスって」
いくらかきしむ音を立てながら、闘将の素顔が現れた。
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※おことわり 例によって、このドキュメントはつくばーどオリジナル解釈です。
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