《蘇る闘将》
 超大型トレーラートラック、トランザーの修復が、その後も続けられているだろうことは想像していたが、経過や成果の知らせはなかった。
 そして4年の歳月が流れたある日、2度目の知らせが届いた。

 “ダイモスの修復が完了しました。例によって一切の情報を秘匿していただくことを条件に・・・”

 ダイモスの修復? 4年前は、破損状態からダイモスへの変形は機能修復が不可能と語られていた。それが実現したというのだろうか?
 私はとるものもとりあえず、送られてきたメールへの返信を書き、指定された日時を待ち、その日までに溜まりかけていた仕事を全て片づけ、そして迎えの車に乗り込むこととなった。

 あの格納庫に、トランザーはその巨体を横たわらせていた。
 横たわらせる、という言葉を思い浮かべてしまったのは、おそらくダイモスという既成概念が頭の中にあるからなのだろう。私はこの巨大マシンがヒト型に変形することは見たことがないし、それ自体には魅力を感じない。しかし修復する手間をかけるなら、新しく作った方が早いと言われていた変形機能を、どうやって復元したのか、この4年間に積み重ねられた技術陣のトライアルに興味があった。
 何よりトランザーをもう一度眺めることが出来るという、至極単純な好奇心が、再びこの格納庫を訪れる動機だった。
 トランザーは全ての外装パネルを交換し、ロールアウトした当時のままと思われるカラーリングに再塗装されている。百戦錬磨の末、満身創痍となって全損したスクラップ同然の鉄の塊は、記録映像で見たことがある。4年前に、奇跡的に自走可能状態まで復元されたトランザーには、その戦いの痕跡がありありと残っており、息を呑むほどの迫力に満ちていた。
 これが同じ車体なのかと疑いたくなるほど、修復の終わったトランザーは、こざっぱりとした姿に蘇った。傍らには操縦室へ乗り込むための小型車・トライパー75Sまで置いてあるが、これはレプリカなのだろうか?

 
「ご無沙汰ですね。とうとうここまで仕上がりましたよ」

 連絡をくれた監督官が、にこにこしながら待っていた。私は挨拶もそこそこに、修復の成果を尋ねた。

 「以前説明しました通り、結果的には内部機構を作り直すことになりまして。新変形システムを埋め込むために、膝下から踝まではハイパーアウターフレームとし、外装パネル自体で自重と可動を支えています。
 このノウハウは、火星に行ったダイモスβのものを活用しているのですが、地球の重力下という環境条件でこれを実用化するのに時間がかかりました」


 撤去した内蔵型武装に代わって主動力を胸部に納め、トレーラー時に使われるサブフレームを応用して、腕部をスネの中に移動させたのだという。変形時にはこのサブフレームが両腕を引き出し、肩ブロックと接合するという。膝下は空洞に等しいわけで、とりあえず歩行は可能だが、格闘戦はできない。もっとも、こいつと取っ組み合いするサイズの相手も存在しないのだが。
 しかし、そうなのだ。取っ組み合う相手もいない今日、なぜそこまでして、オリジナル・トランザーをダイモスへ変形させることにこだわったのか?

 「トランザーと付き合い始めて、かれこれ10年ですよ。4年前にようやく走らせてやることが出来て、走り出してみたら、こいつは自分の足で立ち上がりたいと願っていることが、だんだんわかってくるんです。
 言わなきゃ良かったんですが、施主にそのことを話したら、これがもう涙もので。私財を全て投じてでも歩かせてやると」

 そのような経緯があったとは、驚き半分、あきれて半分だ。オリジナル・トランザーの修復体がベースとなっているから、新しい変形機構との入れ替えは、当初言われていた“新造”よりは安くあがっているというが、いったいどれほどの資金を投入したのやら。しかもこの変形機構はダイモスβのようなオートマチックではなく、外部機材を使って吊ったり引いたりしなくてはならないそうだ。

 「そこはね、納期のこともあって仕方がなかったんです。オリジナルの復元にならなかったことでは、施主にもお叱りを受けました。現状、立ち上がってしまえば歩行は可能ですが、いずれオリジナルの変形システム再現へと成熟させていきますよ」

 いや・・・なんというか、変形させて自立させることを復元しただけでもたいしたモノだと思うが、この監督官は、まだトランザーとのつきあいを続けるつもりなのか。その目的を果たすのは、はいったい、いつのことになるのだろう?

 
「スクラップを自走させるまでに6年ちょっと。変形機構の組み替えに4年です。技術や材料や、制御ソフトは日々進化していますから、そう遠くない日に、また驚かせてあげられるでしょう。さて、講釈よりもメインイベントといきますか」

 監督官は作業開始の指示を出しながら言った。

 「小一時間ほどで変形が完成します。それまでお茶でも飲みながら待ちましょう。実は今日は、その施主も視察に来ているんです。紹介しますよ。今後の取材もしやすくなるでしょうから」

前回のトランザー編に続くものであり、闘将ダイモス本編とは全く関わりありません。