衛星軌道往還バイク》
 ORB−40Fは、外宇宙技術開発機構「OSТO」が生み出したした特殊バイクで、FORZE(フォーゼ)システムの一環を成す装備のひとつだ。マシンマッシグラーという名称は、フォーゼシステムを取り扱う少年、如月弦太朗が命名した。
 車体を構成するフレームは月面基地で開発されたアストリウム合金製。チタン合金を凌駕する軽量さと剛性を有しており、カウルやタンクなどの耐熱外装材・繊維状強化プラスティックアプレーターパネルは最高で1400℃の高温に耐えられる。
 この車体に搭載されるエンジンは、H30A型次世代水素燃料燃焼式内燃機関で、燃料はニッケル合金ベースの水素吸蔵用メタルハイドライトプールに蓄えられる。最高出力約312・7馬力、最高速度は、時速506・9kmを誇る。
 車体の特徴は、宇宙往還機同様の安定翼が備わるリア周りにある。垂直尾翼をバーティックテール、水平尾翼をデルタリアウイングと呼称しており、基部ユニットは水素と反応させる酸化剤をリザーブするプロペラントベイが組み込まれている。
 これらのシステムと容量をオートバイサイズに小型化しているところが、OSТOの技術力の高さで、ORB−40Fの跳躍力はオートバイ側の駆動力以外にも後端部のインターブーストノズルによって大気圏離脱速度を得ることができる。しかし、パワーダイザーのブースターアシストをもってしても、その速度は第一宇宙速度域までが限界で、月軌道までの航行能力は無い。
 ここまでの性能一覧からみて、オートバイとしての能力は極めて高いものの、宇宙往還能力は極めて実験的な要素が強いと想像する。地表から衛星軌道ほどまでの航続(打ち上げ可能)距離は、オートバイとしてはそれだけでもとてつもないものだが、あくまで衛星軌道という限界を抱える以上、月面基地であるラビットハッチとの相互運用には適していない(ラビットハッチは別のシステムで地上とつながってしまっっているから運用の必要もないのだが)
 また、外装材の耐熱限界温度が定められていることから、再突入時の軌道や高度、突入速度などを精密に計算・制御しなければ、車体も搭乗者も空力加熱には耐えられない。それらを補うためのシステムの一部は、以下の部分に見受けられる。
 フロントカウルを中心に見ていくと、カウル上部にはセミクリスタルスクリーンが装備され、フィールド発生により宇宙線を遮断する。ノーズ先端には高感度ミリ波により500m四方の路面状況や障害物を探知するリフレクションレーダー、カウル両サイドには地磁気センサーと姿勢制御システムを内蔵するポスチャースタビライザーが取り付けられ、パワーアシストとオートバランスを補助できる。その集中管理はトラッキングコンソールで行われ、その作業を司るドライビングAIは単独走行をはじめ、ラビットハッチのメインフレームとデータリンクし、マシン全体の機構を制御することも可能だ。
 つまり、宇宙線遮断のスクリーンフィールドは、大気圏突破時の加速に対応し、さらに再突入時の減速フィールドとしても応用され、軌道・高度計算と突入角度などの制御もスタビライザーやAIが担当していると思われる。地表への着地時にはドラッグシュートは用いられず、6ポッドキャリパーを基本とするエアロブレーキを使用するという。