-ESCUDO L4−2400-



-クロカン四駆の衣を棄てる-


 エスクードの車種構成が2.4XGに一本化されたのは、
4型へのマイナーチェンジにおいてだったが、このとき3型
との変更点には特筆すべきものを見いだせなかった。ただし、
この頃からスペアタイヤを廃して応急修理キットを載せると
いううわさは流れ始めていた。
 そればかりか、2012年からの燃費基準に適合できなけ
れば、モデル自体の廃止という話も聞かれ、それ以降、サー
ドパーティー企業での部品開発台帳にも、情報更新が行われ
なくなっていた時期がある。最終的な噂話は、24年めにし
て国内での販売終了というものであった。
 ことほど左様に、景気の低迷と自動車へのエコロジー問題
等が大きくのしかかり、いわゆるエコカーやハイブリッド、
EV以外の、しかもクロカン四駆には風当たりが強くなって
いたのである。その性能論を指摘するならともかく、スタイ
ルやデザイン面において、スペアタイヤを背負った姿など時
代遅れだ。という自動車雑誌の論評は、まったく身勝手な流
行論でしかないと思う。
 ここに至って、メーカーサイドがその時流に迎合せざるを得ない事情は、理解できても納得はできない。ましてやタイミングも悪い。日本は
1000年に一度と言われる大震災を経験し、巨大地震と大津波のあとの被災地という悪路を抱え込むこととなった。しかも、東海、東南海、
房総沖から首都圏と、同じレベルの巨大地震が確実に発生するとまで示唆されている時期に〜そんなものが発生したら、クルマの運行どこ
ろではないのだが〜スペアタイヤを廃止してしまう本格オフローダーというものの考え方が、災害復興しようとする日本からの世界戦略車と言
えるのだろうか。
 それが、2012年7月に登場した5型への、率直な感想だ。
 このマイナーチェンジに際して、いくつかのディーラーに、
「まずはパンクした現地から無事に帰宅しなくてはならない。だから応急処置として
の修理剤はいいとして、そのタイヤのパンク状態が従前のパンク修理で直せる軽微なものだった場合、修理に持ち込まれたタイヤはどのよう
に扱われるのでしょうか」
 と尋ねてみた。
 ほとんどのディーラー、ディーラー、町工場とも、「新品のタイヤへの交換を勧める」という回答であった。タイヤ内に充てんされた修理剤の質
量によってタイヤ自体のバランスが狂う、充てん剤の除去に手間と費用がかかる、といった理由からだそうだ。
 いまのところ唯一、スズキ自販茨城本社では、「充てん剤の除去にはその分の費用がかかるが、軽微で修理可能なパンクであれば、要望に
応えて修理を受け付ける」というコメントを得られた。ケアを手厚く考えるディーラーが存在することは、幾ばくか明るい話題だ。
 
   


 だが、5型はクロカン四駆の衣を脱ぎ捨てた。同時に設定された
特別仕様のクロスアドベンチャーには、実はその真髄が込められて
いると思われる。
 クロスアドベンチャーとは、ヨーロッパで行われているバイクや
カヌーを使って山野の自然に挑む競技である。そこに赴くのは他な
らぬ人間自身なのであって、車はステージに人と道具を運ぶトラン
スポーターなのだ。道なき道を往く極限のオフロードカーから、身
の丈のあり方を見つめ直す。そこに、5型のエスクードのテーマが
あるのだろう。
 仮にその通りだとすれば、今度はカタログに綴られている本格オ
フロード性能をあおり続けるコピーが、空々しく見えてくるのも事
実なのだが。
 散々愚痴をこぼしたものの、やはりエスクードの背負っていたス
ペアタイヤは、サイズも大柄になっていたことから、車自体を重く
感じさせていたようだ。あっさりしすぎたバックドアからは何の特
徴も得られなくなったが、確かに軽快さは車体全体に漂うようにな
った。
 一説によると、スペアタイヤとナンバープレートの「バックドアへの共存」は、タイヤが死角を生むことから、現在の法規
では認定されないのだという。ナンバープレートの視認性は確実でなくてはならないことから、今回はバックドア中央部に位
置することとなった。これは、4型までのプレート位置がバンパー左下に備わる取り付け部分の形状がデパーチャーアングル
を低下させると不評であったことへの改善になると思われたが、デザイン変更されたバンパーの同アングルに数字の変化はな
い。もっとも、肝心のスペアタイヤがないのでは、タイヤそのものもを破損するようなガレ場には近づかない方が良い。
 ちなみに、クロスアドベンチャーの18インチホイールに採用されているタイヤは、ダンロップのSPORT 01。お世
辞にも本格オフローダーが履くべきタイヤではない。
 
 

 フロントグリルとフロントバンパーのデザインも変更された。定番のフェイスリフトだが、クロスアドベンチャーはグリルが黒メッキ仕様。バンパーにはLED
リングを配置したフォグランプが装備される。バンパー下部のスキッドプレートは、事実上その役目を果たさない。これは明らかに「フロントアンダーストーン
ガード」である。ただ、このパーツのみ、SSPPと呼ばれる塗料混在ポリプロピレン製で、石が跳ねても塗装が剥げることがない。もちろん傷はつく。
 
 3型をベースに改良程度は施されている(と想像する)エンジン、駆動系、サスペンションシステムは従来通りの性能。程度問題とはいえ、基本的な3代目
エスクードの性能はきちんと踏襲されている。カタログモデルはカム式LSDを組み込んだセンターデフ。ESPはメーカーオプション(クロスアドベンチャーに
は標準装備)だ。
 「今般、この車でオフロード走行をする人は少ないでしょうから、この型で充分の性能を維持しています」
 その営業説明は、わかったようなわからないような印象でしかなかったが、秀でたところをあえて引っ込めた車をどのようにアピールすればいいか。ディーラ
ーも困惑するのは無理もないだろう。問題は、本当に時流がこの姿かたちのクルマを求めており、質実剛健差は無駄なものなのか。最大公約数の見誤りが無
いとは、どうしても思えない。





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