-ESCUDO V6−3200-



-3年目にして新エンジン投入-
 
 エスクードに大排気量エンジンの搭載が求められている
のかどうか、多くのエスクードファンの声を聞くと、疑問
を感じる。エスクードはコンパクトにしてライトウエイト
であることに、強いアイデンティティーを与える人が圧倒
的多数だからだ。
 しかし北米などの需要をイメージすると、アクセルを踏
んだ分だけ速度に乗り、ブレーキを踏んだらがっちりと停
まる。こういったはっきりした性格が好まれ、その上で安
全性と快適さを共有することがテーマとなっていく。
 世界戦略車としてマーケットを切り開いていくために、
世界標準を国内仕様にも投入しなくてはならない台所事情
はわかるが、それならヨーロッパ向けに出荷しているディ
ーゼルモデルもある。
 日本向けという視点で3.2XSを見る心境には、いさ
さか複雑なものがある。
 XSのマイナーチェンジは、V型6気筒のユニットを踏襲しながらも、新たなブロックを採用した。
 北米でのみリリースされている、XL7に搭載されているN36A型をボアダウンした、N32Aが、3型
に与えられたエンジン。最高出力165kw(224ps)/6200rpmと、2型までのH27Aに対し
て30kwものパワーアップが図られた。最大トルクは284N・m(29.0kg・m)/3500rpm
と、同様に34n・m(3.5kg・m)太っている。圧縮比は従前の9.5から10.0に上げられ、最大
出力は2000回転高く、最大トルクは500回転低く設定された。
 2008年の原油高騰時期に、10・15モード燃費がリッターあたり1km少なくなった数値でこのエン
ジンが投入されたのは、タイミングに恵まれなかったとしか言いようがないが、N系V6には様々な技術が盛
り込まれている。                 


 2.4XGとの違いでは、VVTが吸排気両側に組み込
まれた点だ。排気側のバルブタイミングを調節し、排気効
率を上げることで、高出力と低燃費を図ろうとしている。
 また、ピストン裏面にエンジンオイルを連続吹き付け、
耐久性を向上させるピストンクーリングシステムも採用し
ている。バルブを開閉するロッカーアームは、H27Aで
は直打式であったが、N32Aではカムとの接点にローラ
ーベアリングを追加。摩擦抵抗を軽減して燃費対策と騒音
対策を兼ねている。
 その他の静粛性対策では、鉄製コンロッドを焼結製に改
良し、高密度・高強度と軽量化を果たしている。シリンダ
ーブロックは側面のスカートを従来よりも深いものとし、
エンジン自体の剛性アップにつなげている。ヘッドカバー
はXG同様にフローティング式の制振構造。タイミングチ
ェーンは、ローラー式から歯形プレート式のサイレントチ
ェーンに改められ、カバーも二重構造となっている。これ
らの効果は、2型に対して2.0dbの改善が実現した。
 なお、駆動系のプロペラシャフトやデフ回りの改善、リアブレーキ、サスペンションの改善はXG同様の改良なので、そちらを参照され
たし。操作系は、マルチインフォメーションディスプレイ、エアコンスイッチの改善、オートライトシステム、クルーズコントロールシステム
がXGとともに搭載されている。
 ESPは、3型からセンターデフ内のカム式LSDと切り離され、XSにはLSDが組み込まれなくなった。これに代わるESPの新機能と
して、ヒルディセントコントロールが4Hロック状態と4Lロック状態で使用できるようになった。各モードで走行中、ESPoffスイッチ下の
ブレーキ制御スイッチを入れることで、4Hロック状態で時速約10km、4Lロック状態では時速約5kmへの自動ブレーキ減速が行わ
れる。これは急傾斜を下る際の補助機能。ブレーキペダルから足を離しても動作し、ペダルを踏むと一時的に制御を停止する。
 ただし、ESPの動作には「カガガ」という機械ノイズが伴い、これに慣れていないと(知っていても)心理的には不快。その他、過酷な
制動によってブレーキパッドが加熱した場合、保護機能によってトラクションコントロールが解除され、ESPoffランプが点灯することが
ある。
 ESPを利用した機能としては、坂道発進時にブレーキからアクセルを踏み換えるタイミングで、ブレーキが介入しており、ヒルホール
ドコントロールシステムとしてズリ下がりを防止する。
 
   


 このXSは、スズキ自販茨城本社さんのご厚意によ
り、試乗させていただいた。
 “踏めば踏んだ分だけ”のたとえではないが、平地
でのアクセルレスポンスは素直なXS。ほんの僅かに
ペダルに力を入れるだけで、路地から表通りへ走り出
す。市街地でのゴーストップは、控えめなアクセルワ
ークが必要。ラフに踏んでいくと、周囲の流れを超え
てしまう。
 市街地を離れるため、高速道路に乗り入れる。歴代
共通項として、右後方の視界は良い方ではない。バッ
クミラー、ルームミラーの情報だけに頼らない方が無
難だ。室内の遮音性の高さも、接近する車両をドライ
バーが感知するためには痛し痒しということもある。
 本線への進入後は、瞬く間に巡航速度に達する。こ
こでも燃費計に気をとられていると、知らないうちに
大幅に速度超過してしまうので用心が必要だ。
 実際には試していないが、おそらくリミッターは180km/hを超えたあたりで作動し、電子制御スロット
ルが絞られると思われる。とにかく踏んだ分だけ加速していくが、初代モデルの2500cc等と比べても(こ
れはこれで初代では静かな方なのだ)各段に静粛性が高く、思っている以上に速度が乗りやすい。18インチ化
されたホイールと225/60R18のラジアルタイヤ(試乗車はダンロップSPORT 01を使用)との相
性は、オンロードでは良好だ。
 登坂ルートは、2.7XSの試乗のときよりもタイトコーナーが連続する場所(舗装路面)を選んだ。
 例によってぐいぐいと登っていくが、さすがにここでは1720kgという重量を体感する。1600ccの
軽量級エスクードをFRのまま走らせるような軽快さはない。だから不自由かと言えば、特別不都合があるわけ
でもない。強いて言えば、ライトウエイトというエスクードならではのフットワークは、もう味わうことは叶わ
ないということだろうか。 
    

 ダートの走行距離は短かったため、4LデフロックやESP解除といった場面は得られなかった。もともとフルタイム四駆なので、
傾斜路の途中でいったん停止し、再度発進しようとも、リアタイヤがスピンするようなことはない。フラットダートのドライ路面ならば、
オンロード寄りのタイヤでもそこそこ走っていける。ローレンジとESP解除は、使いどきの選択に慣れていくことが肝要だ。
 4Hロックでのヒルディセントコントロールだが、ぶっつけ本番で慣れていないため、いまひとつ信用しきれない。個人的には5AT
に2速ホールドを追加してもらった方が扱いやすい。
 ダート走行以上のステージは、試乗車なので自粛した。車を借りてくる前にTA01Rでルート試走した結果、藪がひどく擦り傷を
避けられない上、梅雨時の濡れ続けな粘土質路面がよく滑るため、最低オールテレーンでないと登れない。本来は そういう場所
だからこそ、3.2リッターのトルクやLSD無しのESP性能を試したかったのだが・・・

 試乗は約70km程度。返却前に満タンに給油し直したところ、リッター7kmくらいの燃費だった。エアコンは始終つけっぱなしで、
アクセルワークには気をつかっていないので、そんなものだろう。2.4XGもそうだが、ここまで大排気量化したら、もはや燃費云々
でエスクードを選択しても意味がない。
 望んだ分の加速と巡航速度、それに追従する安定感は確保されている。この性能をどのように扱っていくかはユーザー次第だが、
その気になれば、という余裕を抱いて、後方からオーバーテイクしていく他者には目もくれず、ラインを譲って悠然と走り続けることを
願いたい。2008年秋以降に追加される、車間距離維持システムやプリクラッシュセーフティシステムの搭載車が予定されているの
も、単なる装備装飾ではないということだろう。
 複雑な心境ながら、エスクードもここまで進化してきたことを認めざるを得ない。電子制御に制御されるという部分が多くなっている
ことは、快適さは増してもそれを運転する楽しさとは別次元に思える。安全性の追求も含めて、電子制御を動作させる最終的なデバ
イスは、ドライバー自身であると信じたいところだ。3型XSを高く評価できるかどうかは、ユーザーの乗りこなしに期待される。

 
その後、3.2XSの長距離試乗という機会を得た。
 懸念していた燃費は、標準装備されているクルーズコントロールの効果によって、リッター9km〜10kmという意外な伸びを見せた。526kmを走って54.5リットル給油(タンク容量66リットル)であった。インフォメーションディスプレイの航続可能距離では、満タン時の最大値545kmと表示されていたので、実際にはリッター8kmくらいを平均値として考えればいいかもしれないが、理論値では(混雑や渋滞がなければ)、600kmに迫る航続距離を稼げることになる。
 しかし多くの2.7XSユーザーが言うように、5速ATに2速ホールドがないことは、3.2XSでも同じ。加速は良いとしても、減速時のエンジンブレーキが脆弱だ。4輪ともディスク化されたブレーキの制動力は向上しているが、エンジンブレーキで減速していくタイミングは、フットブレーキの使い方とは異なる。ESPの機能拡張として装備されたヒルディセント能力は、あくまで低速走行時の制動補佐であって、高速巡航中に5速から3速に落とすようなケースの方が圧倒的に多いはず。このときのエンブレがいまひとつ弱めなのが気になる。
 シートポジションは腰高に設定されており、18インチサイズのタイヤも手伝って、そこそこの視点の高さを感じることが出来る。だが地上最低高が稼げているわけではなく、クリアランスは標準的なSUVのそれだ。シート自体は比較的硬めで(新車だからか)、どの座席でも座りやすい。何より横方向のゆとりは2代目と比べても広々としている。これを体感するのは助手席に座ったときで、ドライバーとの距離感が初代とは圧倒的に開いている。
 これだけ大きくなったディメンションだが、思っていたよりも小回りが利くことと、車両感覚を掴みやすい。後方視界は歴代すべて悪い方なので、目視確認は積極的に行った方がよい。
   
 
 2008年時点で、エスクードシリーズの最高峰に位置するXS。本格的オフロード性能は、クロスカントリー指向と言うよりダートランナーの性格に振られている。それでも、骨太のSUVという評価は高く語れると思う。SUZUKIはエスクードに続く中・大排気量量販車としてKIZASHIを開発中で、同モデルがメーカーフラッグシップに上ってくれば、そのプラットホームを他車種と共用していくはず。エスクードもそれに習う可能性はゼロではない。仮にそうだとすれば、“4代目”はプラットホーム、パワートレーン共にこれまでのコンセプトとは乖離していくことになり、名前を受け継いだとしても全く別の車になっていくだろう。その意味でも、3代目3型(次期モデルまでの間に4型や5型が出てくる余地もある)は、エスクードらしさを残している最後の世代になるかもしれない。

 と、記したのが2008年の秋のことであった。
 この頃から、アメリカにおける経済恐慌に端を発し、大国に風邪を引かれた極東の経済もまた、80〜100年に一度といわれる底の見えない不況に陥った。かの国の自動車産業の構造のもろさは、端で見ているだけなら失笑したくなるほど顕著だったが、日本の各メーカーも笑い事では済まされない事態に直面している。
 3.2XSもまた、1年弱という短命に終わった。
 国内の販売不振と、環境基準(減税政策)に対応が難しく、2009年5月末で生産終了である。これには、エスクードは小振りで軽快であるべきという、根強く定着したイメージやニーズによるところも大きい。なぜここまで大型化したのかといえば、世界戦略車として、主に北米マーケットをねらったクルマ作りと、日本のユーザーが持つエスクード像との温度差だと感じる。その一方で、初代も2代目も必ずや、狭い、荷物がろくに積めない(いったい何を積もうとしていたのか別の意味で興味深い)、非力だと、さんざんな言われ様でもあった。その方面の声には、充分応えてはいるのだ。
 いずれにしても3.2XSのカタログ落ちと共に、初のDセグメントモデルとなるはずだったKIZASHIも、08年秋の量産化予定とまで詰めてきたものが市販化断念(その後2009年夏にアメリカスズキから突如リリース)となり、KIZASHIとのプラットフォーム共用という肥大化も決まっていた“4代目エスクード”への足がかりも凍結された。
 この結末を思うと、エスクードが恐竜的進化を遂げていく先に、モノコックに続いて横置きエンジンFFベース4WDのSUV(現にXL7がこのレイアウトだ)という路線も存在していたわけであるから、悲喜交々だ。
 3.2XSを、どのくらいのユーザーが手にしたかは定かではない。優れた素地を持ちながらも、世界情勢のために消えゆくモデル。そこに見出される価値観は人さまざまだと思うが、骨太のSUVという真価をぜひとも受け止め、大事にしてほしい。


   


 

<< Back
 ・ 
Next >>