2021年6月、風花さんから「のまちゃんの今年の車検は諦めました」との連絡が入った。
 彼女は92年の10月から、ずっとエスクード・ノマド、Goldwinlimitedに乗り続け、これを「のまちゃん」と呼びながらご主人の新月さんと過ごしている。
 あと1年経てば満30歳を迎える「のまちゃん」は、運転させていただくとエンジンは良く回るし、5速ミッションもクラッチミートも小気味いい。
 しかしながら車体とフレームの錆と腐食の進行が激しかった。
 2001年の初夏には床の各所に穴が開き、これでダメかとも思われたが、新月さんはノマドの床板を調達して張り替える、一大リフォームを敢行した。
 ご両人、それほどにこのノマドに愛着を寄せていたのだが、フレームレベルの劣化と、再び進行した別の個所の錆など、御舅さんに「いいかげんにしなさい」と乗り換えの勅命を受けるに至ったのだそうだ。

 
 「のまちゃん」は、風花さんの二台目の愛車として登場し、そのまま嫁入り道具になった。
 土浦ナンバーのまま登録されてきたため、分類番号は57。ワンオーナーで乗ってきたという意味では古参のエスクード乗りなのである。
 律儀にも退役の報告に夫婦でつくばーど基地においでになった日、近場のスポットで雑誌用の撮影をお願いし、小一時間ほど隣町へ出かけているうちに、偶然にも隣県在住でやはり93年からハードトップに乗り続けているクロさんが、「虫の知らせです」とエスクードを走らせ、我々の帰宅とほぼ同時に基地に駆けつけてくれた。
 
 「のまちゃん、きっと『付喪神』になって次のクルマを護ってくれますよ」

 「こんな状態でも下取りが出来たので遺せるものは無いんですけど、次のクルマで基地に来るときに、フォグランプを外してクロさんに進呈するために持ってきます」

 クロさんと夫妻の間で、そんな対話が交わされていた。
 ふと考えると、1600シリーズのエスクードがノマド、ハードトップ、コンバーチブル(残念ながらハードトップ・バンやレジントップまでは揃わないが)と並ぶのは貴重な時代になっている。
 91年から93年式という、黎明期のエスクードが並ぶ姿を、通りかかったご夫婦が「ああ、珍しい光景。すっかりクラシックカーになりましたねえ」と眺めていく。その3台のうち2台がワンオーナーナンバー。みな情が深い。