そこって何処? 1000kmくらい西だって?
時間と距離が紡ぐ 素晴らしい何か
「我々の新しいマシン、E−376Uが完成しました。いよいよ全国大会であるJXCD第二戦に乗り込みます!」
 teamWESTWINの島雄司監督から、吉報が届いた。E−376Uとは、ダートトライアル用に仕上げられたエスクードのことであり、このマシン製作にあたって、わずかながら助言をさせていただいた経緯がある。これは見届けなくてはならないと、日時と場所を聞いたら広島県の世羅町。
 どこ、それ? 何々・・・途中にSレイドで扱ったところがたくさんある? じゃあ行っちゃおう! と、このときほとんど移動距離やら所要時間やらのことは考えもせずに、話をまとめたのでした。

        今回の参加者
 kawaさん
 SIDEKICKさん
 TA01Wさん
 コムロさん
 Cyber-Kさん
 もかぞうさん
 のまどんさん

 toroトロさん
 きらめきさん
 saru8910さんとご子息
 早瀬五郎さんとご家族
 teamWESTWINと島監督
 雷蔵
  
 夜通し高速道路を西へ西へと走り続けて、神戸港の桟橋にたどり着いたのが午前7時。巨大な魚と、でっかいハイヒールと、仁王立ちする鉄人を見物し、その程度のものをあざ笑うかのような大きな遺跡と、内海を渡る橋を眺める。
 ここは震災から復興した街。15年の歳月が過ぎても、街角の所々に被災の痕跡が残る。
 街が活動の時間に移る前に県境へと向かい、大きな城を見上げ、さらにあり得ない質量のカニの爪を見ながら、話にだけ聞いていた超弩級の「桃」を探しに山あいへ分け入る。
 1000kmも走ってくると、もうスケール感などどうでも良くなってくる。が、「マクロの世界を構築する技術はは指先のミクロ感覚が原点」なのだと、数年ぶりに再会した早瀬五郎さんは教えてくれる。
 一変して、瀬戸内の昔ながらの、あらゆるものが凝縮したような小さな街のオープンカフェでは、テーブルが石畳の広場に早変わりして、そこに「想定約5mのロボットがたたずむ様子」を、五郎さんは見せてくれる。webで紹介はしていた、変形できるグランゼルの実物は、職人の仕事を介して、時間と距離の持つ重要なファクターを思い出させる。1000kmの道のりを走ってくる価値が、見聞きしてきたもの全てにあるのだ。
 後になって気づいたことだが、広島県までやってくると、日没後の空が、ずっと長い時間、夕暮れのままだ。これが明石を越えた、西までやってきたことの、現実であり、不思議なことだ。
 だから、広島よりさらに西からの合流となったWESTWINの面々は、普段よりも時間の進行が早くなっているかもしれない。彼等にとって、明日のレースはことし最初のビッグイベントといっても良い。5月の九州で、地元のイベントであるTDAタイムトライアルに出走し、シェイクダウンはすませたE−376Uだったが、今回のJXCDは全国区のレースに位置づけられ、力量を試されるレースなのだ。

 「私が鍛えて、私を追い越してきた連中です。やつらは必ず成果を出しますよ!」

 チーム監督の島雄司さんは、レース前日はいつにもまして陽気になる。チームの面々をリラックスさせる傍ら、自身の重圧と戦っている。後発でまだ到着しない2人のドライバーのことも心配なのだ。その分、ジョッキが空になっていくペースも速いが、いつしかその間隔も長くなる。時間の流れは、全ての人々に平等に割り当てられている。
 だが、島さんが現役でエスクードを走らせる姿を見ることはできなかった。それがWESTWINとの出逢いのタイミングであった。様々なクルマ談義を続けながら過ごしてきたこの数年は、教え子の1人がエスクードを手にして戦い始めるという、次の出逢いをもたらす展開を見せてくれた。
 それは島さんが果たしてくれた、ひとつの約束のかたち。そんなオヤジたちの偏屈な思いを受け止めて走ってくれる若者の到着を待ちこがれて、街道沿いの小さなレストランバーは賑わっていく。