《風か嵐か 青い閃光》
 惑星ゾラと呼ばれる、イノセントが支配する世界。
 この星の大地にはシビリアン、ハナワン、トラン・トランの3種族が生息し、「どんな罪でも3日間逃げ延びれば帳消しになる」という不文律の下、惑星開拓や交易、略奪、争いと交流など、混沌とした文明が展開していた。
 ゾラの文明は、シビリアンによって与えられた産業技術をある程度使いこなしている。開拓に伴う土木工事や資源発掘などには、ウォーカーマシンと呼ばれる半ヒト型歩行重機が用いられ、一対の歩行脚で荒れた大地のあらゆる地形を走破、双腕部は掘削機械や運搬用バケットといったアタッチメントを取り付け、これらをガソリンエンジンやディーゼルエンジンで動かしている。
 半ヒト型という表現は必ずしも適当ではないが、脚部を二足歩行としながらも、腰から上は作業用重機としての合理性を求め、その結果シルエットの上ではヒトとは言いがたいものになっている。
 そのなかにあって、ウォーカーマシン・ザブングルタイプは、やはりイノセントが開発した新しいタイプのマシンだ。2両のビークル形態が2足歩行形態へとドッキングと変形を行い、5本指のマニピュレータを左右一対備える、極めてヒト型に近いマシンであった。
 ゾラで3本の指に入る交易商人、キャリング・カーゴが、ランドシップ・アイアンギアーとともに、2機のザブングルタイプを受領した。このうち1機は、ある日、手負いの少年、ジロン・アモスによって強奪され、3日間を逃げ延びた彼の手に渡った。

 ウォーカーマシンとは、前述の通り土木作業機械や惑星内の交通手段、或いは武器の用途として、ゾラの歴史を刻んでいる。
 操縦は「ステアリング」と「アクセル」「ブレーキ」「クラッチ」など、自動車からの発展系を思わせる。この単純な操縦方法が実用化されているのは、イノセントが開発したコンピューター・コアによる制御系によって、本来複雑を極めるウォーカーマシンの各部動作の大半が補助されてのことだ。
 ザブングルタイプは第5世代の、最も人型に近いウォーカーマシン。それだけでなく希少な設計思想を持っており、上半身となるマシンをブングル・スキッパー、下半身となるマシンをブングル・ローバーと呼ぶ。
 この2両が前後に連結してブングル・トレーラー(ザブングル・カー)として通常時に運用されるが、ゾラの不整地移動に備えて飛行能力も有している。
 5本指のマニピュレーターは、実際には土木作業や地下資源採掘に適しておらず、むしろオプションの携行武器に対して効率的な多用途性を発揮する、戦闘用としての能力が高い。

 イノセントは、三種族を人工的に産み出し、その生命力の強さや知能の高さを調査実験する存在だった。彼らは、滅亡した地球の生き残りであり、三種族の中から、地球再生にふさわしい民族を選び出す手はずだったが、イノセント内部での確執と謀略によって、計画は歪められていった。
 もともとジロン・アモスは、自ら「3日間の掟」を破り、両親を殺害した男を追いつめるために、この新型ウォーカーマシンを手に入れただけであった。しかし彼は、仇討ちの旅を続けるうちに、イノセントの敷いた人類種の進化と存続の実験に踏み込んでいた。
 彼は仲間となった盗賊サンドラットやアイアンギアーのクルー、そして幽閉されていたイノセントの指導者の1人と出会ううちに、親の仇討ちからシビリアンの解放へと、自らの目的を見出していく。
 ジロンは後に乗機をウォーカーギャリアに変えるまで、初期の戦闘によって、ブングルスキッパーの飛行用安定翼と前輪を破壊されたままのザブングルタイプを愛用していた。